爆笑問題カーボーイショートショートショート(テーマ:タイムマシン)没作【タイムマシンの研究】

2020年9月10日

 大学四年生の僕は、大学の広場にあるベンチに座りながら将来の進路について悩んでいた。大学の同級生達と同じように普通に就活をして普通のサラリーマンとして平凡な人生を歩んでいくのか、それとも、子供の頃からの夢だったタイムマシーンの研究を続けていくのかを。

「そこの若い方、何かお悩みの様ですが、どうかされましたか?」

 突然僕に話しかけてきたのは、見知らぬおじいさんだった。

「はい。実は、将来の進路で悩んでまして……」

 僕は何となくそのおじいさんに親しみを感じ、ついぺらぺらと悩みを全て打ち明けてしまった。するとそのおじいさんは、間髪いれずにこう切り出した。

「絶対にサラリーマンになるべきです。第一、タイムマシーンなんて作れる訳がない。いつまでもそんな夢みたいなことを言ってないで、現実を見るべきです。では、わしはこれで失礼します」

 そう言って、おじいさんはその場を立ち去った。

 確かにこのおじいさんの言うことは正論だ。タイムマシーンの研究なんて続けても、完成させるのはほぼ不可能だ。しかし、ここまではっきりと否定されてしまうと、逆に何としてもタイムマシーンを作ってやりたいと反骨心が沸いてきた。

 こうして僕は、タイムマシーンの研究に人生を捧げることを決意した。

 六〇年後。わしはついにタイムマシーンを完成させた。しかしその直後、わしはひどい後悔の念に襲われた。

 わしはこの六〇年間、交友関係を一切断ち、恋人すら作らず、ただひたすらタイムマシーンの研究に明け暮れていた。そのため、せっかくタイムマシーンを完成させたというのに、一緒に喜んでくれる人は誰もいなかった。こんなことになるなら、タイムマシーンなんか作らないで普通に就職して普通に結婚して平凡な人生を送った方がよっぽど幸せだったことだろう。

 そうだ。良いことを思いついたぞ。これからタイムマシーンで若い頃の自分に会いに行って、タイムマシーンの研究を辞めさせてこよう。そうすれば過去の世界にいる自分はきっと幸せな人生を送ることができるだろう。

 わしはタイムマシーンに乗って、六〇年前の自分に会いに行った。

 六〇年前の自分がいる大学の広場に到着すると、そこのベンチに若かりし頃の自分が座っていた。なにやら物思いにふけっている様子だ。きっと将来の進路について色々悩んでいるのだろう。ようし、なんとしても説得してタイムマシーンの研究を辞めさせてやるぞ。

「そこの若い方、何かお悩みの様ですが、どうかされましたか?」