レトロ(小説現代ショートショートコンテスト没作)

 私には懐古趣味がある。

 家の中は家電から家具まで、全てレトロな物で統一している。リビングには大きなレコードがあり、昭和の名曲がいつも流れている。愛車はもちろんクラシックカー。すぐに故障するため、メンテナンスは大変だが、手間がかかる分、愛情も一入だ。

 ある日の休日、愛車に乗って1人ドライブをしていると、都会のはずれに、隠れ家的な古い建物のカフェを見つけた。中に入ると、優しそうな老夫婦が笑顔で迎えてくれた。レトロな家具や小物で装飾された、私好みのカフェである。コーヒーを片手に、お店の雰囲気に浸りながら老夫婦との会話を楽しむこの時間は、至福のひと時であった。今度は妻も連れてこようかな。

 後日、妻を誘ってまたこのカフェにやってきた。

「いらっしゃいませ。おや、またいらしてくれたんですね」

「今回はお婆様とご一緒ですか。私達、孫がいないので羨ましいです」