ウサギ(小説現代ショートショートコンテスト没作)

 江戸時代、あるお寺に和尚様と弟子の坊主が二人で暮らしていた。

 この時代、お坊さんは四本足の獣の肉を食べることを禁止されていたのだが、ダメだと言われるほど食べたくなるのが人というもの。

 ある日、坊主が庭で掃除をしていると、そこに一匹のウサギが現れた。和尚様は用事で外出していたため、坊主はこっそりとそのウサギを捕まえて、食べてしまおうと考えた。

 坊主はすぐにウサギを捕まえると、たき火で丸焼きにし始めた。しかしその時、和尚様が予定よりも早く帰ってきて、坊主がウサギを焼いている所を見つかってしまった。

「コラッ! 獣の肉を食べるんじゃない」

「ちょっと待ってください。これはウサギの肉ですよ」

「だから何じゃ。ウサギは獣じゃろ」

「違います。ウサギは鳥です。なぜなら、頭に二本の羽があるからです」

「何をバカなことを言っておる。それは羽ではなく耳であろう。そもそもウサギが空を飛んでいる姿など見たことないわ」

「いいえ。和尚様も見たことがあるはずですよ。お月様にウサギがいるのを。それがウサギが空を飛べる決定的な証拠です」

 坊主と和尚様は、二人で仲良くウサギの肉を食べ始めた。

 この一件以来、ウサギは鳥であるという認識がお坊さん達の間で広まり、一羽二羽と数えられるようになったとかなかったとか。