刑務所生活(小説現代ショートショートコンテスト没作)

 刑務所生活は本当に退屈だ。早起きし、単純作業のつまらない仕事を長時間やらされ、まずい飯を食う。その繰り返しの毎日。

 特に仕事の時間は、本当に苦痛だった。俺は頭の中を空っぽにして、ただ淡々と作業をこなしていた。

 そんな刑務所生活の中で、夕食後から就寝までの一時間の自由時間に読書をすることが、俺の唯一の楽しみだった。

 しかし、刑務所生活が十年を過ぎた頃、俺は刑務所にある本をほとんど全て読み尽くしてしまった。刑期はまだ五年もある。今まで読書だけを生き甲斐にしてきた俺にとって、これからは何を生き甲斐にすれば良いのか、俺は途方に暮れていた。

 そこで俺は、新たな楽しみを作ることにした。それは、自分で小説を書くことだ。小説の内容を考える時間はたっぷりあった。仕事の作業時間である。

 それからの俺は、仕事中に小説の内容を考え、自由時間に小説を書くという生活を続けた。

 半年後、ついに俺の処女作が完成した。タイトルは、『主人は囚人』。内容は、刑務所にいる主人の帰りを待つ妻の話である。俺は独身だが、こんな奥さんがいてくれたらと妄想しながら書いた小説だ。初めて書いた小説にしては、良い出来だと思っている。試しに本好きだという看守の人にも読んでもらったのだが、これはおもしろいと絶賛された。

 その後も俺は、小説を書き続けた。

 ついに今日、俺は出所の日を迎えた。この日までに書いた俺の小説は、実に二桁を超えていた。

 普通の囚人なら、シャバに出たらまず最初においしいご飯でも食べに行くのだろうが、俺が最初に向かったのは本屋だった。しばらく読書ができていなかった俺は、本に飢えていたのだ。

 本屋の入り口近くに、新人作家達の特集コーナーが組まれていた。最近はどのような本が流行っているのか気になってた俺は、そのコーナーをじっくりと眺めていた。

 色んな作家達がいる中、現役で看守をしながら本を書いているという作家の紹介文に目が留まった。

「現役の看守という異色の経歴の作家が誕生! 処女小説『主人は囚人』は売上百万部を突破し、その後も話題作を次々と……」