いつもの(小説現代ショートショートコンテスト没作)

 青いトタン屋根。くたびれた赤いのれん。私がこの食堂に通い始めて、もうすぐ一年になる。

『日替わり定食と卵焼きで』と店員さんに注文するのが、私のお決まりのパターンであった。しかし、今日の私は初めて『いつもの』と注文しようとしていた。

 この決断は、私にとって大きなものだった。もしも『いつもの』と注文して店員さんに分かってもらえなかったら、私は赤っ恥をかいてしまう。それを防ぐためだけに私はこの一年間『日替わり定食と卵焼きで』という、店員さんが覚えやすい同じ注文を繰り返してきたのだ。

 私は満を持して、店の中へと入った。

「いらっしゃいませ」

「日替わり定食と卵焼きで」

 いつもの店員さんが、新しい人に変わっていた。