百人に一人の(小説現代ショートショートコンテスト没作)
私は数年前から、人事の仕事をしている。優秀な人材を採用したいのだが、私の採用した社員はみんなパッとしない。どうやら私には、人を見る目がないらしい。
今年も採用の季節がやってきた。今年こそ優秀な人材を採用したいと、神社にお参りをしに行った。
(神様、私に人を見る目をお与えください。千人に一人の、いえ、百人に一人の逸材でいいので、見極められる力をどうかお願いします)
お参りを済ませたその足で、私は採用試験会場へと向かった。
今年の採用には、二百人程の学生達が集まっていた。その中に、うっすらと光を放つ学生が二人いた。最初は目の錯覚かと疑ったが、何度見直しても確かに光っているのだ。もしかしたら、本当に神様が私に人を見る目を与えてくださったのだろうか? 約二百人の内、二人だけ光って見えるということは、本当に百人に一人の逸材なのかもしれない。確かに二人とも、頭の良さそうな顔をした好青年である。
その日は筆記試験が行われた。終了後、この二人の答案を確認したが、どちらも残念ながら採用基準にはぎりぎり届かない点数だった。ただ、筆記試験の結果だけで百人に一人の逸材かもしれないこの二人を落とすのはもったいない気もする。二人を次の集団面接まで進めるのか、それとも落とすのか、私は悩みに悩んだ。
とりあえず落ち着こうと、洗面所で顔を洗いに行ったその時、鏡に映った自分の姿を見て驚いた。なんと、私自身もうっすらと光って見えたのだ。
私みたいなダメ社員が、百人に一人の逸材な訳がない。AB型はよく天才肌だと聞くが、こと私に関しては全く当てはまらない。この力は、どうやらでたらめらしい。神様も人の悪いイタズラをしてくれたものだ。私はあの二人の学生を落とすことに決めた。
外に出ると、日が暮れていた。右腕の時計を見て時間を確認すると、予定の電車の時間まであと五分しかなかった。やばいやばい。急がないと。
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