時価①(東京新聞300文字小説没作)

 初任給をもらった私は、自分へのご褒美に、生まれて初めての回らない寿司屋での食事を楽しんだ。

 回らない寿司屋で食べる寿司は、スーパーの総菜コーナーや回転寿司で食べるそれとは別次元のおいしさで、私は大満足だった。

 しかし、怖いのはこの後だ。実はこのお寿司屋さん、メニューが全て時価なのだ。そのため、一体どれだけの金額になるのか、私はどきどきしながら会計をお願いした。

「お会計三千円になります」

 良かった―。思ったよりも全然安い。これなら普段使い出来そうだな。またこよう。

「大将、あんなにサービスしちゃって良かったんですか?」

「いいんだ。そのために時価にしてるんだからよ。若いもんには、頑張ってもらわないとな」