紫(小説現代ショートショートコンテスト掲載作)

2021年6月28日

 その女の子は、紫色が大好きだ。紫の服を着て、紫の靴を履き、紫のランドセルを背負って学校に通っている。文房具や給食袋も、もちろん紫色。好きな食べ物まで紫色の食べ物という徹底ぶりである。遠足のおやつについて、先生に

「紫芋はおやつに入りますか?」

 こんな質問をしたことがあるのは、全国を探しても彼女くらいであろう。傍から見るとかなりの変人だが、紫好きなところ以外はいたって普通の女の子であった。そのため、紫ちゃんという愛称でクラスにも馴染んでいた。

 そんな紫好きの女の子は、成長しても紫好きのままであった。大学生になった彼女には、人生初めての彼氏ができていた。その彼氏は、全身紫色にコーディネートされた彼女のファッションにも一切口出しせずに、ありのままの彼女を受け入れてくれる優しい人だ。

 しかし、彼には致命的な欠点があった。普段は優しい人なのだが、お酒を飲むと性格が一変し、彼女に暴力を振るうのだ。彼女の友人は、彼女にその暴力彼氏と別れることを勧めた。

「暴力を振るうなんてありえないわよ! 絶対別れた方がいいわ」

「でも普段は優しい人なのよ」

「それが一番危ないのよ! そんなことを言っていたら、ずっと暴力を我慢し続けないといけなくなるわよ」

「私も頭の中では分かってるの。別れた方がいいって。だけど、なぜだか嫌いになれないのよ」

 彼女の体には、無数のあざができていた。