評価一(小説現代ショートショートコンテスト掲載作)
俺は作家になるため、地元の大学を中退し上京した。父親からは、お前なんかが作家になれる訳がないと猛反対され、母親からも、せめて大学を卒業してからにしてほしいと言われたが、自分の夢を一刻も早く叶えるため、家出同然で実家を飛び出してきたのだ。
上京して最初の一年は、どの文学賞に応募しても箸にも棒にもかからず、正直何度も上京したことを後悔していた。
上京二年目。俺の作品が初めて、新人文学賞の最終選考まで進んだ。結局、大賞には選ばれなかったが、もう少しでデビューができるかもしれないと期待が高まった。
そして上京三年目。去年最終選考まで進んだあの新人文学賞で見事大賞を受賞し、作家デビューが決まった。
そこからの俺の作家人生は、順風満帆だった。デビュー作は十万部を超えるヒット作となり、いくつも掛け持ちしていたバイトを全て辞めることができた。デビュー作から半年後に出した新作も順調な売上で、俺は天才だと少し調子に乗り始めていた。
そんなある時、ふと自分の作品の評価が気になり、ネット販売サイトでデビュー作のレビューを覗いてみた。
そのサイトのレビューは、作品の評価を一から十までの十段階で評価し、それにコメント文を添えるという形式になっているのだが、ほとんどの評価が七から十の高評価の中、一番最後に評価一のレビューがあった。このサイトは新しいレビュー順に並んでいるため、この評価一のコメントは、小説が販売された直後に書かれたということになる。
評価一のレビューは他にももう一件だけあったが、その内容は配送が遅れたという作品には関係のないものだったので軽く受け流していた。しかし、この評価一のコメント文には、辛辣な言葉で俺の作品の欠点が長々と綴られていた。それもかなり的を射た批評で、俺はしばらくの間ショックで呆然となった。
その後、続けて新作のレビューを覗いてみると、そこにも最後に評価一のレビューがあった。コメントの文面を見る限り、さっきと同じ人のようだ。
それ以来俺は、その評価一のレビュー主を唸らせるような作品を書いてやろうと、毎日必死になって執筆活動に取り組んだ。
上京してから、早十年が経った。今までに発表した作品は実に二十を超えていたが、あの評価一のレビュー主からは、今だに評価一以外の評価をもらえずにいた。
しかし、明日発売されるこの作品に関しては、かなりの自信があった。俺の作家人生の集大成とも言える作品で、いつもは辛口の編集者からも太鼓判を押されたほどだ。
翌日。あのサイトをチェックすると、早くもレビューが書かれており、そこにはこんなコメントと共に、評価二がつけられていた。
『今までの作品と比べて、確かな進歩が見られる。上京してから十年、本当によく頑張ったな。だが、お前なんてこの世界ではまだまだひよっこだ。これからも驕らず、努力を怠らないように。それと、母さんが会いたがってるから、たまにはうちに帰ってきなさい。 父より』
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