爆笑問題カーボーイショートショートショート(テーマ:片思い)没作【わたあめ】

 僕は密かに片思いしているクラスメイトの山田さんを、お祭りに誘った。

「山田さん、こっちこっち」

「鈴木君ごめん待った?」

「全然。それじゃあ行こうか」

「うん」

「あっ、わたあめだ。山田さん食べる?」

「どうしよっかな。私、わたあめには苦い思い出があって」

「へーどんな思い出?」

「私が中学生の頃、好きだった先輩とお祭りに行った時にね、私わたあめを食べてたの。手が汚れるのが嫌で直接かぶりついて食べてたんだけど、顔の周りがベタベタになっちゃったんだよね。その後、先輩といい雰囲気になってキスされそうになったんだけど、顔のベタベタが先輩についちゃうと思ってとっさに避けちゃったの。それ以来、その先輩とは何もないまま卒業しちゃったんだ」

「なんか切ない思い出だね」 

 そう言いながら僕は、わたあめに感謝していた。山田さんの唇は、わたあめによって守られたのだ。ありがとう、わたあめ。

「だけど今日は食べよっかな。わたあめ」

「じゃあ僕がごちそうするよ」

「ありがとう」

「山田さんお待たせ。はい、わたあめ」

「わあ、おいしそう」 

 山田さんはわたあめを受け取ると、直接かぶりついて食べ始めた。どうやら僕は、恋愛対象として見られていないらしい。