爆笑問題カーボーイショートショートショート(テーマ:トンネル)没作【午後のトンネル】

「エフ君、午後のトンネルって知ってる?」

 突然僕に話しかけてきたその女の子は、大学の午前中の講義でよく見かけるエヌ子だった。

「午後のトンネル? 何それ?」

「午後の間だけ現れる不思議なトンネルでね、そのトンネルを通ると幸せになれるんだって。ねえ、これから一緒に行ってみようよ」

 実は前から少し気になっていたエヌ子からの突然の誘いに、僕は迷わずOKした。

 エヌ子に連れられて歩くこと一時間。そこは小さな丘が一つあるだけだけの、建物も人通りもない場所だった。

「ねえエヌ子ちゃん、トンネルってどこにあるの?」

「慌てないでエフ君。まだ一一時五九分よ。あと一分だけ待ってね」

 エヌ子ちゃんに言われるがまま、僕は黙って午後になるのを待った。

「じゃあ一緒にカウントダウンしよっか。せーの十、九、八、七、六、五、四、三、二、一、〇」

 その瞬間、目の前にあった小さな丘に突然、人一人がやっと通れるくらいの小さなトンネルが出現した。

「すげー本当にトンネルが出てきたよ。すごいねエヌ子ちゃん。あれ?」

 さっきまで横にいたはずのエヌ子ちゃんが、いつの間にかいなくなっていた。どこに行ったんだろう。ああそうか。先にトンネルの向こうに行っちゃったのかな? 

「おーいエヌ子ちゃーん。待ってくれよー」

 僕は走ってトンネルの中へと入って行った。

「エフ君、騙してごめんね。でも安心して。午前〇時になったらまた人間に戻れるから。午後になった瞬間、またここに逆戻りだけどね」

 トンネルに変身してしまった僕を残して、エヌ子ちゃんは去っていった。