爆笑問題カーボーイショートショートショート(テーマ:家族)没作【老水泳】

「九月十三日二時十分。ご臨終です」

「先生、ありがとうございました。親父も百歳まで生きることができて、満足だったと思います」

「穏やかな老衰死でした。きっとお父様は、安らかにあの世へ行けたことと思いますよ」

  ここはどこじゃ。あっ、そうか。わしは死んだのか。じゃああそこに見えるのは、三途の川ってやつか。川の近くに誰かいる。案内人かのう?

「すまんが、ここは三途の川ですかな?」

「ええ、そうですよ。この川を渡ると、あの世へ着きます」

「渡し舟とかはないのかねえ?」

「昔はあったんですけど、船が壊れてしまいまして。今では自分で泳いで行ってもらうことになってるんですよ」

「泳いで行くだって! そんな無茶な。足は付かないのかい?」

「昔は浅い川だったんですが、現世で地球温暖化が進んでいる影響で、川の水位が上昇しましてね。もう足が付かない深さにまでなってしまったんですよ」

「そうなのかい。それじゃあ仕方がないのう。泳いで行くとするか」  

 若い頃は泳ぎが得意だったんだがなあ。この年老いた体では、ほとんど前に進めない。この調子だと、あの世まであと何日かかることだか。こんなことになるんだったら、もうちょっと元気な内に死んでおくべきだったかのう。