爆笑問題カーボーイショートショートショート(テーマ:片思い)没作【ノスタルジー】

 この浜辺から海を眺めていると、昔のことを思い出す。 

 当時、私には好きな女の子がいた。彼女とはよくこの浜辺で語り合った。友人のこと、家族のこと、そして、将来のことを。

 彼女はケーキ屋さんで働くことが夢だった。彼女はよく、私にケーキを作ってくれた。私にとって彼女が作るケーキは、世界一のごちそうだった。 

 そんな彼女とも、別れの時がやってきた。彼女のお父さんの仕事の関係で、遠くへ引っ越すことが決まったのだ。 

 引っ越し当日、私は彼女に、ずっと好きだったことを告白しようと思っていた。でもできなかった。そんな勇気が出なかったのだ。 

 この浜辺から海を眺めていると、あの時告白できなかった後悔の念に駆られた。

 あの頃の私は、まだ子供だった。愛の告白すらまともにできない、坊やだった。もしもあの頃に戻れるならば、私は迷わず告白するだろう。

 今の私はもう子供ではない。夜中にトイレだって一人で行ける。もう立派な大人だ。

「ケンちゃーん。そろそろ帰るわよ」

「うん。今行く」 

 私は最近乗れるようになった三輪車で、ママの元へと向かった。