爆笑問題カーボーイショートショートショート(テーマ:家族)没作【魔法の杖】
「では、魔法の杖を使ってこのボールを消したいと思います。スリー、ツ―、ワン、はい、消えました」
客席から拍手が沸き起こる中、野球帽を被った少年が野次を飛ばす。
「嘘だ。ポケットに隠しただけだろ。魔法の杖なんて、ある訳ないじゃん」
「ねえ僕、ちょっとステージに上がってみない? この魔法の杖で、君を消してみようと思うんだけど、どうかな? あ、やっぱりやめておこうか。怖いよね」
「怖くなんかないよ。いいよ。上がってやる。どうせ魔法の杖なんて、インチキに決まってるよ」
「さあみなさん、勇気あるこの少年に、拍手をお願いします」
観客の拍手の中、少年がステージへと上がった。
「僕、本当にいいんだね」
「うん。早くやってみなよ」
「では参ります。スリー、ツ―、ワン、はい、消えました」
「ほーら、やっぱり消せなかった。魔法の杖なんてインチキだったね」
その少年の言葉とは裏腹に、客席からは歓声が上がっていた。
「本当に消えたわ」
「すげーよ」
「魔法みたいじゃないか」
少年は訳がわからず、混乱していた。
「みんな何言ってんだよ。僕はここにいるじゃないか。もしかして、本当に僕は消えちゃって、誰からも見えなくなっちゃったのかな。嫌だよそんなの」
少年は泣き出してしまった。
「おいマジシャン。あの子供はどうなったんだよ」
「早く戻してあげないとかわいそうよ」
「みなさま、ご安心ください。これから消えてしまった少年を、魔法の杖で元に戻したいと思います。それでは参ります。スリー、ツ―、ワン、はい」
客席からは、また歓声が上がった。
「わあ! また現れた」
「一体どうなってんだ」
「さてはあなた、本物の魔法使いだな」
少年はこの反応を見て、驚きと安堵の表情を浮かべた。
「僕、信じてもらえたかな?」
「うん。おじさんはインチキなんかしていなかったんだね」
「もうこれからは、あんな野次を飛ばしたらダメだよ」
「うん。約束するよ」
「よし、良い子だ」
「みなさん、うちの息子のために、わざわざご協力ありがとうございました。これであの子も懲りたと思います」
「いえいえ。元はと言えば、我々が悪いんです。もっと我々のマジックがうまければ、息子さんもあんな風にはならなかったんですから」
さっきのマジシャンと、観客に扮したマジシャン仲間達は、こうして会場を後にした。
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