爆笑問題カーボーイショートショートショート(テーマ:家族)没作【石の顔】

 私の息子は小さい頃から、何かに取り憑かれたように石のコレクションに熱中していた。変わった形の石を集めたくなるというのならまだ理解できるが、息子の集めてくる石はどこにでも落ちているような普通の石ばかりで、似たような石がいくつもダブっていた。

「こんなの集めて何がおもしろいの? どれも同じような石にしか見えないけど」

「何言ってんの母さん。みんな全然違う顔をしているじゃんか」 

 こんなやりとりを、一体何度繰り返しただろうか。来年にはもう中学受験が控えているというのに、息子は相変わらず石集めに夢中だ。もしかしたら、息子は何かの病気なのかもしれない。そう心配になった私は、精神科医の先生に相談することにした。

「……といった具合なんですが、息子は何かの病気なのでしょうか?」

「まあまあお母さん。そう深刻にならなくても大丈夫だと思いますよ。変わった趣味を持つ人というのは、年齢に関係なくたくさんいますからね。それにしても、石に顔があるという表現はおもしろいですね。その石のコレクションの写真を見る分には、どれも同じような石にしか見えませんが」

「私も同感です」

「もしかしたら息子さんの前世は、石だったのかもしれませんね」

「先生、冗談は止めてくださいよ」

「いえ。私は結構本気で言っていますよ。例えばです。私達人間は、複数の蟻を見ても全部同じ顔に見えますよね」

「ええ」

「でも、蟻の視点から見れば、一匹一匹違う顔に見えていると思うのです」

「まあ、そうかもしれませんね」

「これと同じように、一見同じように見える石でも、石の視点から見ればそれぞれ違う顔に見えるんじゃないですかね」 

 私はこの先生に相談したことを後悔していた。私の息子が石の生まれ変わりですって。何をふざけたことを。時間の無駄たったわ。 

 家に帰ると、息子はいつものように石のコレクションを眺めていた。

「あんた、いい加減にしなさいよ。いつまでそんなもんに夢中になってんのよ。もうすぐ受験なんだし、勉強に集中しなさいよ」

「うるさいな母さん。俺は石を集めるのが好きなんだよ。誰が何と言おうと絶対止めないからな」

 全くこの子ったら、なんて頑固なのかしら。この石頭。あっ……。