安達弾~打率2割の1番バッター~ 第9章 練習試合1試合目 船町北VS大阪西蔭⑦
5回の表。この回の先頭バッター安達に打席が回ってくると、百瀬は深呼吸をしてギアを上げる準備をした。
(こいつ、明らかに他のバッターとは実力が全然ちゃう。俺のカットボールを初打席でいきなり当ててくるミート力、そしてどん詰まりながらも外野まで運んだあのパワー、龍谷千葉のレギュラークラスやと思て全力で抑えにいかなやられるで)
初球、外角低めにカットボール。見逃しストライク。
(さっきの打席よりもスピードが上がった? さっきはまだ全力じゃなかったのか。ますます打ちづらくなるな)
2球目、内角高めにストレート。わずかに高めの内側に外れてボール。
(顔面近くの厳しいコースに投げ込んでやったのに避けようともせず平然と見送られてもうた。なんやろうこの不気味な威圧感は。2巡目まではカットボールとストレートしか使わん予定やったけど、そうも言ってられへんな)
そう判断したキャッチャーの川本は、残り2つある百瀬の持ち球の内の1つ、チェンジアップを解禁することにした。
3球目、内角低めにチェンジアップ。見逃しストライク。
(今のはフォークかな? いやチェンジアップか? まあどっちでもいいや。ピッチングマシンのフォーク中の変化を緩やかにした感じと覚えておこう)
4球目、内角高めにカットボール。安達は打ちにいくも捉えきれず斜め後ろに飛んでいくファールとなった。
(このカットボール、140キロ以上出てるな。ピッチングマシンの変化球は140キロが最高だからそれを超える変化球はさすがに打ちにくい。でも、打てない球じゃない)
5球目、外角低めにチェンジアップ。わずかに低めに外れてボール。
(見送り方がホンマ不気味や。結構ギリギリのとこやったのにバットを振りにいく素振りすら見せへんかった。こいつにはストライクゾーンで勝負せえへんと振ってくれなさそうやな)
6球目、川本は外角低めにカットボールのサインを出したが、百瀬のボールは高めに浮いて外角の高めへと向かっていった。
「カキーン!!!」
安達が放った鋭い打球は逆方向のレフト線を破るツーベースヒットとなった。
(百瀬のカットボールは高めに浮いたとはいえスピードも出てたし悪くない球やった。それを逆方向にあの当たり。こいつホンマ不気味や)
(くそー打たれた。全力で投げると高めに浮きがちになる悪い癖が出てもうたな。もっと精進せなあかんな)
(ホームランにしたかったのに一瞬振り遅れて逆方向のツーベース止まりになっちゃったな。もっと修正していかないと)
これまでランナーを1人も出せずにいた船町北打線だったが、ここにきてようやくノーアウト2塁というチャンスが訪れた。
(この回、最低でも1点返さないとな。できればヒットを打ちたいが最低でも安達を3塁まで進めたい)
5番で左バッターの黒山は、ライト方向への引っ張る打球を強く意識しながら打席に上がった。
初球、外角低めにカットボール。見逃しストライク。
(速っ! さっきの打席の時よりスピード上がってねえか? 普通に打ちにいったら振り遅れるな。気持ち0.1秒くらい早めにスイングを始めよう)
2球目、内角低めにカットボール。空振り。
(遅っ! こっちの狙いを察知してわざと遅いカットボールを投げてきたな。器用なピッチャーだな。でも狙いは変えない。最後にはまたあの高速カットボールがくるはずだ)
3球目、真ん中低めにチェンジアップ。空振り三振。
(狙いが全部丸見えやで。あんたみたいなわかりやすいバッターはほんまリードしやすくてありがたいわ。さっきの狙いが読めない不気味な4番バッターも少しはあんたを見習ってほしいわ)
6番で右バッターの福山も、安達を最低でも3塁に進めるため逆方向を意識して打席に上がった。
初球、内角高めにカットボール。見逃しストライク。
(速っ! この速さだったら普通に打ちに言っても振り遅れて逆方向に飛んでいきそうだな)
2球目、ど真ん中にストレート。空振り。
(ストレート速っ! 150以上は出てそうだな。まあカットボールがあれだけ速いんだから当たり前か。もう追い込まれちゃったし逆方向がどうとか言ってられないな。とにかく当てにいこう)
福山はもともと短めに持っていたバットをさらに短く持ち直した。
3球目、外角低めにカットボール。ギリギリバットにかすってファール。
(よし、当たった! 次は前に飛ばす!)
4球目、外角の地面スレスレに落ちるチェンジアップ。福山はバットが止まらず空振り三振。
(はぁーダメだったか)
7番バッターの新垣は、自分の実力では普通に打ちにいってもまず打てないということを前の打席で思い知らされていたため、ある大胆な作戦を考えていた。
(外角の高め。俺の1番得意なこのコースにきた球だけを狙いにいく)
しかし、この打席で百瀬が外角の高めに投げることは1度もないまま、新垣はあえなく見逃しの三振に終わった。
「百瀬、ナイスピッチング! ピンチをうまく切り抜けたな」
「ピンチ? そんな場面あったか?」
「ノーアウト2塁は結構ピンチやろ」
「あの打線相手にノーアウト2塁なんてピンチの内に入らんやろ」
「確かにそやな」
船町北 0-4 大阪西蔭
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