安達弾~打率2割の1番バッター~ 第9章 練習試合1試合目 船町北VS大阪西蔭⑤

 3回の裏。ここから白田が投げる相手は、新しいフォークボールの練習相手にしてきたバッター達のため、フォーク以外の持ち球を打席からはまだ1度も見ていない状態だった。

(このピッチャー、前の打席は全球フォークボールとかふざけた配球してきよったけど、あれは一体何やったんや? 最初の点を取られるまでは普通にスライダーとかシュートも投げとったのに、前の俺の打席から今までずっとスライダーもシュートも投げてへん。何か投げれへん理由でもあんのか…………そうか! きっと指にマメでもできたんやな。人数少なそうやし交代できるピッチャーもおらへんのか。そないやったら容赦なくフォーク一択に絞って狙い打つで)

 大阪西蔭の4番バッター三浦は、そんな勘違いをしながら打席に立った。

 初球。白田が投じた球は、右バッターの三浦の胸元を抉るシュートだった。

「ストライク!」

(えー! 普通にフォーク以外の変化球投げてきたやん。マメできたんとちゃうんかーい! じゃあなんでさっきまであんな謎配球をしてたんや? うーん……)

「ストライク!」

(あかんあかん。余計な考え事してる間に追い込まれてもうた。もうあれこれ考えるんはやめてきた球を打ちにいくで)

 3球目、外角に逃げていくスライダー。見逃しボール。

 4球目、内角高めにストレート。高めに外れてボール。

 5球目、外からギリギリストライクゾーンに入ってくるシュート。三浦はその球をカットした。

(このピッチャーなかなかコントロールええな。厳しいとこばっか投げてきよる。そやかていくら凄いピッチャーでも必ず失投はする。それまでは徹底的に粘ってやるで)

 6球目、内角ぎみの真ん中に失投と思われる甘い球がきた。

(これや!)

 三浦が振ったバットの下を、球は潜り抜けていった。

「ストライク! バッターアウト!」

(ここにきてフォークかいな! くそーやられたわ)

 1回裏の途中からやったフォークの練習が結果的に相手を惑わす形となり4番バッターを打ち取ることに成功した白田だったが、このまま簡単に打ち取れるほど大阪西蔭打線は甘くはなかった。フォークを捨てて他の変化球を狙う、逆にフォークに山を張るなどの作戦で安打を積み重ねていき、2アウトながら満塁というチャンスを作った。しかし、ここで迎えたバッターは9番で投手の百瀬。高校野球では投手でもバッティングのうまい選手は珍しくないが、一般的には野手よりも苦手な場合が多い。かくいう百瀬も例外ではなかった。

「ストライク!」

「ストライク!」

「ストライク! バッターアウト!」

 打順に恵まれた白田は、2回に続き3回も何とか無失点に抑えた。

 

 4回の表。先頭バッターの星は、前の打席で3回も百瀬のカットボールを見ていたため、だいたいの球筋は把握していた。

(今度こそ打ってやる)

 星に対する初球は、外角低めにまたもやカットボールがきたが、星はバットが出なかった。

「ストライク!」

(ダメだ。あんなに速くてキレのいいカットボールをこんな厳しいコースに決められたらわかってても打てない。甘いコースにくるのを待つか)

 2球目、百瀬の投じた球は内角へと向かっていく。ここからカットの変化をするとデッドボールになりそうな球だった。

(危ない!)

 星は体を反らして避けようとするが、百瀬の投じた球はそのまま変化することはなかった。

「ストライク!」

(ここにきて普通のストレートか。カットの残像がこびりついて思わず避けてしまった。ダメだ。打てる気がしない。かくなる上は……)

 3球目、百瀬が球を投じる瞬間、星はバントの構えに切り替えた。百瀬が投じた球は不運にもバントをするのが1番難しいとされる内角高めへのカットボールだった。

「カーン!」

 バントした球は後方に打ち上げてしまい、スリーバント失敗となった。

(クソ―全然ダメだった。でもバットには何とか当てられた。まあバントだけど。次こそはヒット、いやせめて前に打球を飛ばすぞ)

 2番バッターの白田は、事前にある作戦を立てていた。

(さっきの回、俺はフォークやフォーク以外の球に狙い球を絞られた結果ヒットを何本も打たれた。今度はこっちがやり返す番だ。あのカットボールは正直右バッターの俺にとってかなり打ちづらい。だからストレート1本に狙いを絞る。これで百瀬を攻略してやる)

 初球、内角高めにカットボール。見逃しストライク。

 2球目、内角低めにカットボール。見逃しストライク。

(焦るな焦るな。さすがに3球も連続でカットボールは投げてこないだろう。次こそは打つ)

 3球目、百瀬の球は外角に向かっていた。

(一か八かだ!)

 白田が振ったバットは、無常にも空を切った。

「ストライク! バッターアウト!」

(3球連続でカットボールかよ。くそー完全に作戦が裏目に出たか)

 3番の水谷は、前の打席で見た百瀬のカットボールを思い浮かべてはその球をホームランにするイメージトレーニングを繰り返していた。

(俺は打てる。俺は打てる。俺は打てる……)

 初球、外角にきたカットボールに対して、水谷は待ってましたとイメージトレーニング通りのフルスイングで迎え撃った。

「カキーン!!!!」

 気持ちのいい打球が響き渡ったのは、水谷の脳内だけの幻だった。

「カーン!!」

 打球はぼてぼてのファーストゴロ。船町北打線はこの回も1人のランナーすら出せずに終わった。

 船町北 0-4 大阪西蔭