安達弾~打率2割の1番バッター~ 第13章 決勝戦 船町北VS龍谷千葉③

 千葉県にある170校が参加した夏の甲子園千葉大会。その王者を決める決勝戦。船町北VS龍谷千葉の試合が今始まろうとしていた。

 船町北高校スターティングメンバー

 1 星 (中)                     
 2 福山(三)             
 3 黒山(投)
 4 安達(一)                      
 5 新垣(二)           
 6 尾崎(遊)          
 7 白田(左)          
 8 水谷(右)
 9 鶴田(捕)

 龍谷千葉高校スターティングメンバー

 1 清村兄(遊)
 2 小林 (右)
 3 鈴木 (左)
 4 清村弟(捕)
 5 田中 (中)
 6 西村 (二)
 7 斎藤 (一)
 8 片岡 (三)
 9 村沢 (投)

 船町北のベンチ。鈴井監督は龍谷千葉のスタメンを見て、内心がっくりしていた。

(村沢が先発かよ。くそーやはり決勝戦まで隠してやがったのか。だが選手達の前で弱きな姿勢を見せる訳にはいかない。ここは毅然とした態度でいくぞ)

「情報の少ない村沢がきたからって慌てるな。まずは最初の打席でじっくりと球を見て相手を研究していこう。何か気付いたことがあればすぐに情報を共有して、チーム全員で村沢を攻略していくぞ!」

「はい!」

 龍谷千葉のベンチ。森崎監督は船町北のスタメンを見て、ガッツポーズをしていた。

「俺の予想通り、黒山が先発できたぞ。今までの練習の成果を出して、黒山をボコボコにしてやれ!」

「はい!」

 1回の表。船町北の攻撃から試合は始まった。

(できるだけ粘って、持ち球を全部投げさせてやる)

 1番バッター星に対する村沢の初球は、ど真ん中のストレートだった。

「ストライク!」

(さすがに今の球は打つべきだったか。いやいや、目先のエサに惑わされるな)

 2球目。真ん中高めの甘いコースのストレート。

「ストライク!」

(また打ち頃のコース。しかもいたって平凡なストレート。黒山や安達が言っていた癖球は、まだきていない。ていうか、本当に癖球を投げるのか?)

 3球目。村沢の投じた球は、またど真ん中の甘いコースに向かっていた。

(もう我慢できない。ヒットにしてやる)

 星が打ちにいこうとした瞬間、球は鋭く内角へ曲がった。

「ストライク! バッターアウト!」

(今のはスライダーか。油断した。癖球だけかと思ったら普通の変化球もあるのか)

 星はすぐさまネクストバッターの福山に情報を伝える。

「最後の球はスライダーだった。結構曲がるぞ。癖球はまだ投げてない」

「わかった」

(スライダーなんて前に対戦した時は投げてなかったよな? 新しく覚えたのか)

 2番バッターの福山に対する初球は、内角ギリギリに入ってくるスライダーだった。

「ストライク!」

(結構曲がるな。右対右でこのコースのスライダーは打ちにくい)

 2球目。外角低めギリギリへのストレート。

「ストライク!」

(さっきとは打って変わって厳しいコースばかり。最初のバッターを三振に打ち取って調子が上がってきたのか)

 3球目。外角の外に外れるスライダー。

(やべっ)

 思わず打ちにいってしまった福山は、なんとかカットしようと腕を伸ばすが、あと一歩届かず。

「ストライク! バッターアウト!」

「村沢、ナイスピッチ!」

 そう声をかけたのは、キャッチャーの清村弟だった。

(スライダー気味の癖球を投げられるなら、普通のスライダーも投げやすいはず。そう思って2か月くらい前にスライダーの習得を勧めたけど、まさかここまでうまくハマるとはな。この調子なら1巡目は、癖球を見せずに普通のストレートとスライダーだけでも抑えれられそうだな)

「カキーン!!」

(なーんて、そう簡単にはいかないか)

 3番バッターの黒山は、初見のスライダーを見事捉えてセンター前ヒットにした。