安達弾~打率2割の1番バッター~ 第24章 夏の甲子園への秘策⑥

「カキーン!!!」

(やべっ、ちょっと強く打ち過ぎたか)

 鈴井監督がノックで打った打球は、レフト方向の深い位置まで伸びていく。

(初球から難しい球を打ってしまったな。これは本職の滝沢でも捕れないだろう。あれ? 安達もうあんな位置にいる。もしかして追いつくんじゃ……)

「パシ!」

 レフト方向への大飛球を、安達は初の外野守備にも関わらずいきなりキャッチした。

(何であの打球を初心者が追い付けるんだ? 確かに安達の足は速いが、それにしたってまず追いつける訳ないと思うが……そうか。きっとビギナーズラックってやつだ。賭け事以外ではあまり聞いたことがないが、野球にビギナーズラックがあったっておかしくない。まっ、まぐれに決まっているよな)

 そう思いながら2球目のノックを打つ鈴井監督。

「カキーン!!」

「パシ!」

 3球目。

「カキーン!!」

「パシ!」

 4球目。

「カキーン!!」

「パシ!」

 5球目。

「カキーン!!!」

「パシ!」

 6球目。

「カキーン!!」

「パシ!」

 7球目。

「カキーン!!」

「パシ!」

 8球目。

「カキーン!!!」

「パシ!」

 9球目。

「カキーン!!」

「パシ!」

 そして10球目。

「カキーン!!!」

「パシ!」

(一体どうなっているんだ? 安達が外野守備をしたのは、今日が初めてのはず。それなのに……滅茶苦茶うめーじゃねえかよ! 打球を打った瞬間の動き出しが恐ろしく早い。しかも正確だ。もしかして安達の奴……俺が見ていない間にこっそり、外野守備の練習でもしていたのか? まあそれは後で聞くとして、次は送球の方も見ておくか)

「安達、次からはキャッチした後ホームに向かって投げてくれ」

「わかりました!」

 鈴井監督が打った浅いレフトフライに安達は難なく追いつきキャッチすると、ホームに向かって送球した。球は少しだけサード方向にズレた位置に、2バウンドで戻ってきた。
 
 その後も何球か繰り返しこの練習を行ったが、安達の送球はいずれもそこまで大きくズレることはなかった。

(コントロールは悪くないな。肩の強さは今一つだが、今までファーストしか守っていなかったことを考慮すればしょうがない。これから練習していけば改善も期待できるだろう。安達の外野守備、思った以上に期待できそうだな)

「おい安達! 一旦戻ってこい」

 安達がレフトから戻ってくると、鈴井監督は気になっていたあの疑問をぶつけた。

「お前ひょっとして、こっそり外野の守備練習でもしていたのか?」

「いや、今日が初めてですよ」

「じゃあ何であんなに動き出しが早いんだ? 普通は慣れるまで打球判断に時間がかかるはずだが?」

「別になんてことないですよ。ただ打球の方向と音を聞いて、何となくこの辺まで飛びそうだなーて感じで予測して走ってるだけです」

(こいつもしかして……外野守備の天才じゃね?)