安達弾~打率2割の1番バッター~ 第20章 特待生 比嘉流星の入部⑦

(初球からずっと浮き上がってくる妙な球を、それも低めにばかり投げてくるな。もしかして、俺の弱点バレてる? もしそうなら、もう俺にできることといったらフォワボールになってくれるのを願うか、高めにコントロールミスしてくれるのを願うかのどちらかしかないな)

 そんなことを安達が考えている内に、比嘉が投球モーションに入った。

(安達先輩の選球眼は驚異的だ。ちょっとでもストライクゾーンから外れたら必ず見逃される。だから、ど真ん中目掛けてぶち込むぜ!)

 比嘉はこの日1番の大きな振りかぶりを見せると、そのまま全身をしならせながら渾身の力を込めてストレートを投げ込んだ。

(おっ、真ん中高めにくるぞ! 打てる!)

 安達はフルスイングで比嘉のストレートを迎え撃つ。

(あれ? 球が少しずつ、落ちて……)

 比嘉のストレートは、安達のバットをくぐり抜けていき、西郷のミットに収ま……。

「ボン!」

 西郷はまた、比嘉のストレートを捕り損ねた。さらに西郷の体に当たって跳ね返った球は、横に転々と転がっていった。

「よっしゃー! この勝負、俺の勝ちだぜ!」

 両腕を掲げて大喜びする比嘉を尻目に、西郷はすかさず安達に叫んだ。

「安達! 走るたい!」

「おっ、おう」

 西郷に促され、1塁方向に走る安達。西郷が転がった球を拾い終わるころには、安達は悠々と1塁に到達していた。

「比嘉、喜んでるところ悪いたいが、この勝負安達の勝ちたい」

「はっ? 何言ってんだ。ちゃんと空振り三振に抑えただろ」

「確かに今のは紛れもなく三振だったばい。けんど、この勝負は出塁できるかどうかの勝負たい。ばってん、今の打席は安達が振り逃げで1塁に出塁したから安達の勝ちって訳たい」

「ふざけんなよ! てことは、お前わざと安達先輩に振り逃げさせるために球をこぼしたのかよ! 卑怯だぞ!」

「そうだそうだ!」

「比嘉の言う通りだ!」

「卑怯だぞ西郷!」

 比嘉はもちろん、2人の対戦を見ていたチームメイト達までもが物言いを付ける。

「言っとくが比嘉、おいどんはわざと球をこぼした訳ではないたい」

「んなこと言われても信用できるかよ!」

「本当たい。いくらおいどんでも、いきなりノーサインで変化球なんて投げられたら捕れんたいね」

「はっ? 俺は最初からずっとストレートしか投げてないだろ!」

「最後の球は下に落ちてたし、三打席から投げ始めた球はワンバンしそうな球が浮き上がってくるし、おいどんからしたらどっちも変化球たい」

「下に落ちる? 浮き上がる? 俺の球が?」

「自覚がないたいか? まあとにかく、勝負はこっちの勝ちたい。だから約束通り、比嘉には今後変化球を投げてもらうたい。浮き上がるストレートと、下に落ちるストレートをな」

 こうして、ひと悶着あったものの比嘉流星は無事、船町北高校野球部の一員として迎えられることとなった。