安達弾~打率2割の1番バッター~ 第9章 練習試合1試合目 船町北VS大阪西蔭③
1回の裏。先発の白田は先頭バッターの三浦に対してスライダーとシュートで横に揺さぶるピッチングで2ストライクまで追い込むも、その後はカットで粘られ逆に3ボールまで追い込まれてしまった。
(さすがは大阪西蔭の1番バッター。厳しいコースに投げ込んでもしっかり食らいついてくる。できれば2巡目までとっておきたかったがフォークを使うしかないな)
鶴田のフォークのサインに白田もうなずき、真ん中低めのストライクゾーンからボールに外れるフォークボールを投じた。しかし、三浦はその球を冷静に見極めるとフォアボールで出塁した。
2番バッターの田所は、初球の内角へのシュートをいきなり打ちにいった。その時すでに1塁ランナーはスタートを切っていた。
(ヒットエンドランか!)
田所は内角への球をうまく逆方向に運ぶ技ありのライト前ヒットを放つと、1塁ランナーの三浦はいっきに3塁まで到達した。ノーアウト1、3塁。初回からいきなりの大ピンチが訪れた。
キャッチャーの鶴田はタイムをとると白田の元に向かった。
「コースも悪くないし、球のキレもまずまず。これは相手を褒めるしかないな」
「いや、俺が悪い」
「えっ?」
「コースは悪くない? 球のキレもまずまず? それじゃあダメなんだよ! 強豪校の強力な打線を完璧に押さえようと思ったら、完璧なコースに投げるか、多少コースが甘くても打たれないような精度の高い球でも投げられない限り通用しないんだよ!」
「まあ確かにそうだけど」
「最初のフォークを見送られたのは、俺のフォークの精度の問題だ。あのフォークじゃ選球眼の良い相手には簡単に見極められてしまう。だからもっと落ち始めが遅くてバッターに見極められにくい球に改善していかないと。そしてさっき打たれたシュートはコースが微妙に甘かった。これも俺のミスだ。鶴田、相手を褒めてないでもっと俺にダメ出ししろよ! 俺はもっと成長して黒山からエースの座を奪えるくらいの実力を身につけたいんだ!」
「わかったよ。なら遠慮なく厳しい注文を付けさせてもらいますか。次のバッターからはデッドボールになってもいいくらいギリギリの内角ばかり攻めてくぞ。中途半端な球だけは投げるなよ」
「おう!」
3番バッターの山本に対する初球は、内角ギリギリのストレート。
「ストライク!」
「おい白田! まだまだコース甘いぞ!」
「おう!」
2球目、左バッターの山本の体にぶつかる軌道からギリギリぶつかるかぶつからないかというコースへ変化する内角へとシュート。
「ボール!」
「ナイスボール! いいコースだ!」
(デッドボールすれすれのこの球がナイスコースやと? こいつ俺にぶつける気かいな。随分好戦的なバッテリーやな。まっ、これくらい本気できてくれへんとつまらへんし大目に見てやろか)
3球目、今度は内角高めの顔面付近へのスライダー。少し内側の高めに外れてボール。
(前言撤回や。顔はあかんやろ顔は。そろそろ仕留めたろか)
4球目、白田は4球続けて内角へ球を投じる。山本はそれを見た瞬間1塁方向に体をずらしながらスイングを始めた。
(内角ギリギリの球でもこれで一躍ど真ん中の絶好球に変貌や)
山本のバットが球を捉える直前、球が下に変化した。
「カーン!」
山本の打球はキャッチャー前で打ちつける形で大きくバウンドした。
(よし、打ち取った!)
そう確信した鶴田だったが、3塁ランナーの三浦は山本が体をずらした瞬間にスタートを切っていたためバウンドした球を鶴田がキャッチした瞬間には三浦が本塁のすぐ目の前まで迫っていた。
(帰らせてたまるか!)
鶴田は三浦に向かってダイブしながらタッチしにいくも、三浦はそれをうまくかわしながら回り込んで本塁ベースを左手でタッチした。
「セーフ!」
(くそっ!! せっかく白田が良い投球してくれたのに。さすがは大阪西蔭、走塁までそつがないな)
悔しがる鶴田を尻目に、白田は山本に対して最後に投げたフォークボールに手ごたえを感じていた。
(これだよこれ! 俺が投げたかったフォークは。この感触を忘れないうちにもっと投げておきたい)
その後白田は、鶴田のリードに対して何度も首を振ってはフォークボールばかりを要求した。その影響もあってか白田はこの回9番バッターの百瀬をフォークで打ち取るまでに4失点を喫した。だがその結果とは裏腹に、白田の表情はどこか晴れ晴れとしていた。
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