安達弾~打率2割の1番バッター~ 第9章 練習試合1試合目 船町北VS大阪西蔭②

 船町北VS大阪西蔭。練習試合の1試合目が今始まろうとしていた。

 船町北高校スターティングメンバー 

 1星(中) 2白田(投) 3水谷(左) 4安達(一) 5黒山(右) 

 6福山(三) 7新垣(二) 8尾崎(遊) 9鶴田(捕)           

 大阪西蔭高校スターティングメンバー

 1三浦(中) 2田所(二) 3山本(三) 4星田(右) 5佐々木(左) 

 6遠藤(一) 7川本(捕) 8水島(遊) 9百瀬(投)

「予定通り1試合目は白田を4回まで、5回からは水谷に投げてもらうからな。大阪西蔭打線はホームランこそ少ないがチームの平均打率が5割を超える隙のない打線だ。この打線を抑えるのは龍谷打線を抑える以上に難しいかもしれないな。白田、水谷、この打線相手にどこまで抑えられるのか期待しているぞ。そして相手ピッチャーは百瀬が先発してくる。2番手ピッチャーの百瀬相手に点を奪えないようじゃエースの千石から点を奪うなんて夢のまた夢だからな。最低でも3点以上は取ってもらわないと。それじゃあみんな、この貴重な機会を無駄にしないように精一杯プレーしてくれ!」

「はい!」

 1回の表。1番バッターの星は去年の夏、甲子園準々決勝の大阪西蔭VS龍谷千葉戦をテレビで観戦していた時のことを思い出していた。

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 先輩の投手陣があれだけ打ち込まれた龍谷打線相手に、大阪西蔭のエース千石聖人が先頭打者以降1人のランナーも許さない圧巻的な投球を披露していて、星はそのあまりの凄さにただただ脱帽していた。ところが、6回に入ってから突如コントロールが乱れフォアボールを2人続けて出したところで千石はマウンドを降りた。この時点でスコアが9対1だったこともあり、当時の星は千石が肩を痛めていたとは思いもせず、千石を休ませるための戦略的な降板だと勘違いしていた。そしてその時、千石に代わって登板したのが百瀬剛三だった。

 甲子園準々決勝にくるまで大阪西蔭高校はエースの千石1人で投げてきたため、百瀬にとってこれが甲子園初登板だった。緊急登板だったこともあり心も体も十分な準備ができないままマウンドに立った百瀬は、最初のバッターをいきなり歩かせてしまいノーアウト満塁の大ピンチを作ってしまう。

(押し出しの四球だけは避けたい)

 百瀬がそんな気持ちで投げた1球は、ストライクを取りたい一心で甘いコースに向かっていった。

「カキーン!!!!」

 結果は最悪の満塁ホームラン。この後百瀬は1アウトも取ることができないまま降板することになった。

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(あの時のイメージが強いからか、百瀬さんには全く怖さを感じないんだよな)

 そんなことを考えていた星に対して、百瀬が初球を投じた。

「ストライク!」

 左バッターの星の胸元を抉るカットボールに、星は思わずのけぞってしまった。

(速っ! これが百瀬さんのカットボールか。あの時の百瀬さんと同一人物とは思えないな)

 2球目、そして3球目と、百瀬はカットボールを連投。星はその2球ともバットを振りにいったが当てることすらできず、あっけなく三振に終わった。

 その後も2番バッターの白田、3番バッターの水谷と、百瀬のカットボールに翻弄されてまともなスイングすらさせてもらえないまま3者連続三振に打ち取られてしまった。

 百瀬剛三。2年生の時に初登板した甲子園の舞台で満塁ホームランを打たれるなど散々な結果に終わり一時はスランプに陥るも、持ち球の1つだったカットボールに磨きをかけてカットボール主体のあらたな投球スタイルを確立し見事復活。今年の春のセンバツではエース千石が100球を超えたあとの中継ぎや連投で投げられない試合での先発など、大車輪の活躍を見せた。

(船町北はん、試合前はやたらとうちの千石と試合できるか気にしてはったみたいやけど、その前にうちの百瀬のこと過小評価し過ぎやないか? 上位打線の3人がこんなあっさり打ち取られるようなクソ打線相手やったら正直千石出すんがもったいないわ。なんや無理やり理由でもつけて次の試合の登板なしにしてやろかな。とりあえず百瀬にはこのまま完封でもしてもろて格の違いを見せつけてやりまひょか)

 関西出身の戸次監督は昔から口が悪く、数年前には選手からパワハラで訴えられそうになったこともあり、普段は暴言防止のために丁寧な標準語を話すようにしている。しかし、心の中では相変わらず毒のある関西弁をつぶやいていた。