安達弾~打率2割の1番バッター~ 第9章 練習試合1試合目 船町北VS大阪西蔭⑩

 7回裏、そして8回表と両ピッチャーは3人でピシャリと抑えた。そして8回裏。9回表に船町北打線が同点に追いつくか逆転でもしない限り、水谷が投げるのはこの回が最後となる。

 この回の先頭は、6番バッターの遠藤。水谷との初対決ではたったの3球で三振に倒れている。

(俺も含めこのままじゃこいつにノーヒットどころか出塁すらできずに終わってまう。これじゃあ天下の大阪西蔭打線の面目丸つぶれや。幸いこの回からみんな2巡目に入る。各々対策もできとるはずや。この回、最低でも2点、いや3点は奪ったる)

 初球、アンダーからの内角低めにシンカー。その球を遠藤はいきなり打ちにいった。

「カキーン!!」

 3塁線に鋭い当たりを飛ばすもギリギリ切れてファール。

(このピッチャー、確かにコントロールはええし球種も豊富やけど基本球速が遅いからぎりぎりまで見てから振りにいってもなんとか対応できる)

 2球目、外角低めにオーバーからのストレート。見逃しストライク。

(唯一の例外がこのストレートや。この球は思い切って捨てる)

 3球目、アンダーからの外に逃げていくスライダー。遠藤は打ちにいこうとするもぎりぎり見極めてバットを止めた。

「ボール」

(よし、いける。オーバーからのストレートがストライクゾーンにくる前にヒットを打つかあと3つボール球を見逃せば出塁できるで)

 4球目、アンダーからの外に逃げていくカーブ。遠藤はこれも見極めてバットを止める。

「ボール」

 5球目、アンダーから放たれたその球は遠藤の体に当たりそうな軌道から内角高めギリギリのコースに曲がっていくスライダーだった。並みのバッターなら思わず仰け反りそうになる球だが、遠藤は最後まで目を離さず冷静に球の行方を追いながら打ちにいった。

「カキーン!!!」

 3塁線に鋭い打球が飛んでいく。その打球は初球を打った時の打球と似ていたが、今度の打球は切れずにフェアとなった。

(今の球、我ながらよう打ったわー。前のピッチャーもそうやけど、昔の俺なら右ピッチャーの内角ギリギリに投げてくるスライダーとか怖くて打ちにいけんかったからな。これも一重に、万場兄弟がうちにきてくれたおかげやな)

 水谷にとってはこの日初めてとなる被安打を皮切りに、7番バッター川本もヒットを打つ。8番バッター水島は三振に終わったものの9番バッター百瀬が送りバントを決め2アウトながらランナー1,2塁のチャンスを作る。そして1番バッター三浦のライト前ヒットで1点を返すも、2塁からホームに突っ込んだ川本はライトを守っていた黒山のレーザービームに刺されてアウトとなり、この回は終了した。

「ちっ、1点止まりやったか。あのピッチャーが出てから9打席連続ノーヒットやった時はこいつら全員しばいたろか思たけど、2巡目に入ったこの回からは何とか対応できとったしギリギリ合格ってとこやな。まあ勘弁しといたるわ」

 戸次監督がそうぼやいていた頃、鶴田と水谷は軽く反省会をしていた。

「途中までは出来過ぎなくらいうまくいってたんだけどなあ」

「2巡目に入るとさすがに対応されるか。さすがは大阪西蔭ってとこだな」

「リードする立場から言わせてもらうと、やっぱりオーバーからの持ち球がもう1種類欲しいな。ストレートとチェンジアップだけだとどうしてもオーバーからのサインは出しづらくなるし、アンダーの割合が増える分そこを狙われやすくなる」

「俺も同じ考えだ。新しいフォームにも大分なれてきたしな。カーブなんかどうだろう?」

「悪くはないけど、できればもっとスピードのある変化球がいいな。水谷の持ち球って、オーバーのストレート以外は基本遅い球ばっかだからさ。そうだ、百瀬のカットボールみたいな球がいいな」

「確かにあの球を投げられたらかなり強力な武器になるけど、簡単に習得できるものなのか?」

「なんか面白そうな話してんじゃん」

 2人の話に割り込んできたのは黒山だった。

「俺も百瀬のカットボールには興味があったんだよ。なあ水谷、この試合終わったら百瀬に頼んで教えてもらおうぜ!」

「いいけど、そう簡単に自分の持ち球の投げ方なんて教えてくれるかな?」

「そこは俺に任せとけって。いいアイディアがあるんだ。ゴニョゴニョゴニョ……」

「なるほど、試してみる価値はありそうだな」

 船町北 0-5 大阪西蔭