安達弾~打率2割の1番バッター~ 第9章 練習試合1試合目 船町北VS大阪西蔭①
大阪西蔭高校に到着すると、グラウンドで野球部員達がシートバッティングを行っていた。
「さすがは大阪西蔭! 鋭い当たりをガンガン飛ばしてるな」
「おっ! あの当たりをキャッチするのか。守備もかなりうまい」
レベルの高い練習風景にしばらく見入っていると、大阪西蔭高校の戸次監督が挨拶にやってきた。
「みなさん、わざわざ遠いところからありがとうございます」
「いえいえこちらこそ。まさか大阪西蔭さんから練習試合のオファーをいただけるなんて驚きました」
「前から是非1度練習試合をしたいと思っていたんですよ。なんせ船町北さんところの守備力は全国でもトップクラスですからね」
「そんなに褒めていただいて光栄です。それで、今日の練習試合なんですけど電話で話した通り2試合やるということでよろしいですか?」
「はい。1試合目は10時から。2試合目は1試合目が終わった1時間後にという日程で大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。」
「それではあと2、3分で2軍のシートバッティングが終わるんでこちらのグラウンドを使って10時まで練習していてください。時間になりましたらこちらからレギュラーメンバーをここに連れてきますので。それじゃあ私はこれで一旦失礼します」
(マジか! これが2軍かよ。さすがは大阪西蔭、層が厚いなあ。ていうかグラウンド他にもあるのかよ。ほんと金のある野球部は羨ましいなあ)
シートバッティングが終わるのを待っていた船町北ナインは、最初こそバッティングレベルの高さや守りのうまさに目がいっていたか、鶴田と投手陣の3人はそれとは別のところに目がいっていた。
(キャッチャーの構えたミット、全く動いていない)
スライダー。カーブ。フォーク。シンカー。シュート。多彩な変化球を操るそのピッチャーは、キャチャーが構えたミットの位置から寸分違わずに球を投げ込んでいた。
「なあ黒山、白田、水谷、あのピッチャーみたいな芸当、お前らにできるか?」
「無理」
「無理」
「無理」
「まだ体も小さいし球も遅いけど、あれだけのコントロールがあって変化球も多彩なら普通1軍だよな。このレベルのピッチャーが1軍に上がれないってことは……大阪西蔭、覚悟はしていたつもりだったけど、想像以上にヤバそうだな」
大阪西陰2軍のシートバッティングが終わると、それと入れ替えで船町北ナインが練習をするためグランドの中に入っていく。
「あのピッチャー気になるな。よし、ちょっと聞いてくるわ!」
黒山はそう言うと、グラウンドの外に出ようとするさっきシートバッティングで投げていた投手に話しかけた。
「あのーすみません、名前なんて言うんですか?」
「奥村です」
「下の名前は? あと学年も」
「奥村三郎、1年です」
「へーまだ1年生なんだ。いやね、さっき投げてるとこ見たんだけど奥村君のコントロールエグイね。その内絶対1軍に上がれるよ。頑張ってね」
「ありがとうございます。ただ、この体格なんで監督からは全然期待されてなくて……」
「何弱気になってんだよ! これから伸びるかもしれねえだろ。それに小さくても活躍してる選手なんてプロでもいるじゃんか。ヤルグドの磯野とかさ。だから腐らず頑張れよ!」
「おーい黒山! 早く練習準備しろよ!」
「ああわかってるよ! じゃあな奥村。勝手に期待してるぜ!」
「黒山さん、ありがとうございました!」
午前10時。戸次監督が選手達を引き連れて船町北がいるグラウンドにやってきた。
(うわーみんなデケー! テレビでは見たことあったけど、生でみると凄いな。180近くある俺でもあの中だったら小さい方だな。奥村が弱気になるのもちょっとわかる気がする)
「鈴井監督、それじゃあ早速始めましょうか。先攻後攻は1試合目も2試合目もそちらが先攻でよろしいですか?」
「ええそれで大丈夫です。あのーちょっと気になってたんですけど、千石君て今日試合出ないんですか?」
「あー心配しないでください。2試合目の先発でちゃんと出しますから。今は別のグラウンドで練習中です」
「良かったー。高校ナンバー1投手との呼び声も高い千石君との対戦を選手達も心待ちにしてたんで安心しました」
千石聖人。大阪西蔭高校エースの3年生投手。2年生の頃からエースとして活躍し、去年の夏の甲子園準々決勝ではあの龍谷千葉高校相手に先頭打者ホームランを打たれるも、その後はランナーを1人も許さないパーフェクトピッチングで5回まで1失点に抑える。しかし、6回途中から肩を痛めて緊急降板。その後は肩を守るため1試合100球以内、連投禁止という制限で投げているため、メディアからはガラスのエースという愛称で親しまれている。
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