安達弾~打率2割の1番バッター~ 第7章 春季大会準々決勝 船町北VS龍谷千葉⑧

2020年11月10日

 5回の裏2アウト。1番バッター清村兄を打席に迎えた所で、船町北の外野陣は前進守備の配置についた。

(俺のこと、長打がないって思われてるみたいだな。まあ実際そうだけど、前進守備の外野の頭の上を抜くくらいの当たりなら打てるぜ)

 初球。やや外角よりの甘いコースに入ったスライダーを、清村兄はフルスイングで捉えた。

「カキーン!!」

 (抜ける! スリーベース、あばよくばランニングホームランだ)

 打球はセンター方向にまっすぐ伸びていき、外野の深い位置で落ちそうになったところをセンター星がギリギリキャッチした。

(なぜあの位置に外野手がいるんだ?)

 困惑しながらベンチに戻ってくる清村兄に、森崎監督が事の真相を伝えた。

「聡一! まんまと相手の作戦に引っかかったな」

「作戦?」

「お前外野の守備位置を見て外野の頭を越す打球を打とうと考えたんだろ? だけど相手の外野陣はピッチャーが投球を始めた瞬間、急いで元の守備位置に戻っていたんだ。初球に甘いコースの球がきたのも、恐らく作戦のうち。初球を見逃されたあとすぐに外野の守備位置を確認されたらこの作戦は簡単にバレてしまうからな」

「くそ! 小賢しい真似しやがって!」

「まっ、長打は狙わなくていいっていう俺の作戦を無視した罰が当たったみたいだな。これに懲りてこれからは俺の作戦をちゃんと守……」

「あっ、守備の準備しないとなー」

「おい聡一!」

(この野郎、全然反省していないようだな。まっ、これぐらいのことで反省するタマじゃないか。それにしても、わざわざ2アウトからあれだけリスキーな作戦を使ってまで聡一を抑えにいくとはよっぽど警戒されているみたいだな。ある意味うちの打線の中で一番脅威に思われているバッターなのかもしれない。くそー、やっぱりムカつく奴だ)

 一方その頃、船町北ベンチでは。

「おい鶴田! 今の作戦考えたのお前か!」

「はい! いやーうまくいって良かったです」

「バカ野郎! あんなの結果オーライだ。一歩間違えたらランニングホームラン食らってたぞ。2アウトなんだからもうちょっと状況を考えろよ!」

「はい、すみません」

                                                   

 6回の表。ここで龍谷千葉は代打で出た桧川に代えてピッチャーの佐藤がマウンドに上がった。船町北のバッターは1番星。

(録画した映像で見た感じだと監督の言う通り黒山の劣化版って感じのピッチャーだったな。だけど油断は禁物だ。しっかり見ていこう)

 初球、内角低めにストレート。見逃しストライク。

(球速は130キロってとこか。これなら打てそうだな)

 2球目、内角低めにカーブ。少し低めに外れてボール。

(球速は120キロくらいか。山田のスローカーブを見慣れたせいか速く感じるな)

 3球目、またもや内角低めに、今度はスライダー。見逃しストライク。

(球速は120代後半ってとこか。どの球も腕の振りが全く同じで球速差もあまりないから見分けがつきづらいな)

 4球目、内角高めにストレート。星はなんとかこれをカットした。

(今のストレートは140近く出てたな。空振りを狙いにいく速い球も投げられるってことか)

 5球目、外角低めにスライダー。星はその球を引っかけてしまい、ピッチャーゴロに打ち取られた。

(スライダーにしてもカーブにしても、ちょっとしか変化しないから引っかけてゴロになりやすい。佐藤、意外と厄介なピッチャーだな)

 続く2番バッターの白田は、ストレートを打ち上げてセカンドフライ。

 3番バッターの水谷は、カーブを引っかけてファーストゴロ。船町北打線は初回と同様、安達の前に1人もランナーをためることができないまま6回の攻撃を終えた。

 6回の裏。龍谷千葉の攻撃は、2番バッターの小林。前の打席ではホームランを打っている。

(さっきの打席に続いてもう1本、といきたいとこだが、監督の作戦には従わないとな)

 小林はバットを短く持って構えた。

(龍谷千葉の上位打線相手にコントロールの不安定なオーバースローからの投球をするのはリスクが高そうだな。前の回も結果的には抑えられたがいい当たり打たれてたし。この回を1点以内に抑えてノルマを達成するには、投げなれたアンダーからの投球に賭けた方が良さそうだな)

 初球、内角ギリギリをえぐるシュート。小林はこの球を打ちにいくもファールとなった。

 2球目、内角低めにシンカー。小林はこの球も打ちにいくが、3塁線を切れてファールになる。

(際どいコースばかりで打ちづらいな。だが、打てない球ではない)

 3球目、外角高めにストレート。高めに外れるボール球だったが、小林はこの球も打ちにいきまたファールボールとなった。

(今のは見逃すべきだったか。アンダーからのストレートは軌道が特殊で判断しづらいんだよな)

 4球目、外角低めにカーブ。低めに外れてボール。

 5球目、内角高めにストレート。小林は一瞬うちにいこうとするも、ギリギリ踏みとどまる。高めに外れてボール。

(よし、今度は見逃せた。なんとなくストレートの軌道も読めてきたぞ)

 6球目、外角低めにスライダー。ボール1つ分外に外れてボール。これでカウントは2ストライク3ボール。ピッチャーもバッターも両者追い込まれる形となった。

 そして運命の7球目。水谷が投じた球は……。

 船町北 3-4 龍谷千葉