安達弾~打率2割の1番バッター~ 第7章 春季大会準々決勝 船町北VS龍谷千葉③
2回の表。船町北の攻撃。4番の安達が右打席に入る。
初球は真ん中高めのスローボール。見逃しストライク。
2球目は外角低めのスローカーブ。見逃しストライク。
そして3球目は内角高めのストレート。これはバットがボールの下をぎりぎりかすめファールとなった。
(初見の山田先輩のストレート、しかも遅い球を2球続けたあとなのにいきなり当ててきたか。やっぱりこいつ要注意だな)
キャチャーの清村弟は、安達への警戒を一層強めた。
4球目は内角高めにボール2つ分外れたスローボ―ル。
5球目は外角低めにボール1つ分外れたスローカーブ。
6球目は内角ぎりぎりにボール1つ分外れたスローカーブ。
(3球続けて楽々見送ってきたな。完全にボールが見極められている。でも遅い球を3球続けて見せることはできた。今度こそストレートで三振を取るぞ)
7球目。外角高めへのストレート。安達はその球を今度は完璧に捉えた。
「カキーン!!!!」
打球はぐんぐんと伸びていき、ライトスタンド中段へ突き刺さった。
(3球目に1回見せだけなのにもう山田先輩のストレートを攻略された。しかもホームランで……1本先を越されたか。畜生、残りの打席全部ホームラン打ってすぐに逆転してやる。おっと、今は個人的な勝負はおいといて試合に集中しよう)
安達のホームランで試合はすぐに振り出しに戻った。この勢いでここから畳みかけてやろうというチームの気運は高まったが、なかなか山田を打ち崩すことができない。
5番黒山はスローカーブを引っかけてピッチャーゴロ。6番福山はスローボールをヒットにするも、7番新垣の二遊間に抜けそうな当たりをまたもやショート清村兄のファインプレーに阻まれダブルプレーにされてしまい、この回は1点止まりで攻撃が終わってしまった。
2回の裏。この回は、鶴田と白田のスライダーとシュートを見せ球に使っていくという作戦がうまく当たり、5番田中、6番斎藤を2者連続三振に仕留めることに成功していた。しかし、ここで森崎監督が選手達に作戦の変更を伝える。
「スライダーかシュートを狙っていく作戦だが、どうもなかなかストライクゾーンに投げてこないな。今度はストレート狙いに変更するぞ」
そして、7番の片岡が左打席に入る。
初球は外角へ外れるスライダー。見逃しストライク。
そして2球目に投げたのが、内角の厳しいコースへのストレート。片岡は待ってましたと言わんばかりにフルスイングで打ちにいった。
「カキーン!!」
大きな飛球となったその球は、長打を警戒して深めに守っていたレフトの水谷がフェンスギリギリのところでキャッチ。船町北はなんとかこの回を無失点で切り抜けた。
3回表。船町北の攻撃。
8番尾崎、2球目のスローボールを捉えるもセンターフライでアウト。
9番鶴田、初球のスローボールを捉えるもレフトフライでアウト。
そして、1番星の打席が回ってきた。
初球。内角低めにきたスローカーブをフルスイングで空振り。
(2アウトだし長打狙いか。もう少し下がっておこう)
サードを守っていた片岡は、通常の守備位置から若干後ろに移動した。それを星は見逃さなかった。
2球目。外角にきたストレートを、星はバントで3塁方向へ転がした。サードの片岡は懸命にダッシュし1塁に送球するも、星は悠々とセーフになった。
(よし、うまくいった。そして問題はこれからだ。2アウトだしワンヒットでホームに帰るには早いカウントで盗塁を決めないと。清村弟の強肩は有名だけど、幸い今のピッチャーは3つの持ち球の内2つが遅い球の山田。ストレートの時以外でスタートを切れればほぼ100%セーフだ。確率は3分の2。このギャンブル、乗るしかない)
2番白田に対する初球は、外角高めのストレート。少し高めに外れてボール。
(あっぶねー走らなくて良かった。やっぱり警戒してくるか。とりあえず次も様子を見よう)
2球目。またもや外角高めのストレート。今度はぎりぎりストライク。
(2球連続でストレート。さすがに3連続はないよな? よし、次で走るぞ!)
3球目。清村弟は山田にスローボールのサインを出す。そして山田が投球動作を始めた瞬間、星はスタートを切った。この時点で、星の盗塁成功確率は100%、のはずだった。
星がスタートを切ってセカンドベースの目前まで迫ったその時、セカンド西村のグラブに清村弟の剛送球が突き刺さった。
「アウト! チェンジ!」
(くっそー刺された。3分の2のギャンブルだったのに失敗か。ついてない)
この時の星はまだ気付いていなかった。この盗塁が成功確率3分の2のギャンブルなどではなく、負けがほぼ確定している無謀なギャンブルだったということを……。
船町北 1-1 龍谷千葉
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