安達弾~打率2割の1番バッター~ 第7章 春季大会準々決勝 船町北VS龍谷千葉⑩
7回の表。この回の先頭バッターは4番の安達。
(安達が俺と同等のバッターだとしたら、佐藤先輩ではまず抑えられない。ここは歩かせた方が……いやいや、こんな形で安達にホームラン対決で勝てたとしても全く嬉しくない。ここは勝負しないと。でもどこに投げればいいんだ……とりあえず王道に低めを攻めていくか)
初球、外角低めにストレート。見逃しストライク。
2球目、内角低めにカーブ。これも見逃しストライク。
(あれ? あっさり追い込めたな。佐藤先輩とは初対決だからまずは球をよく見ていこうって算段か。とりあえずまだ遊び球を3つ使えるんだ。ストライクゾーンには追い込まれてから勝負しよう)
3球目、外角低めにカーブ。低めに外れてボール。
4球目、真ん中低めにスライダー。これも低めに外れてボール。
5球目、外角高めのストレート。外角に少し外れてボール。
(やっぱりダメか。ストライクゾーンから少しでも外れた球にはピクリとも反応しない。それだけ選球眼が優れているということか。さて、次の球は……外角高めのあとだしここも王道に内角低めに投げてみるか)
6球目、内角低めにスライダー。ストライクかボールか、どちらのコールをされてもおかしくないような絶妙なコースにきたその球を、安達は見逃した。
「ストライク! バッターアウト!」
(よっしゃ! 佐藤先輩ナイスボール。でもおかしいな。安達ほどの選球眼があるなら、くさい球でも打ちにいけるはずなんだがな。もしかして安達の奴……やっぱり大したことないのか? 俺は安達のことの過大評価し過ぎていたのかもな)
続く5番バッターの黒山は、2球目の外角低めのストレートをうまく逆方向に飛ばしレフト前ヒット。6番バッターの福山は4球目のスライダーを引っかけてファーストゴロになるもその間にランナーが2塁へ進む。これで2アウトランナー2塁のチャンスとなったところで、7番バッターの新垣を迎えた。
(龍谷相手に7回まできて3点差か。去年の夏の大会ではちょうどこの回でコールド負けになったんだっけ。それが今ではまだ勝ちが狙える状況で戦えている。うちのチームも随分成長したもんだな。ようし、こうなったら勝ちを狙いにいくか。そのためにはまずこの回に1点は返しておかないと。正直バッティングの方はあまり自信ないけど、ストレート一本に狙いを絞ればなんとか打てそうだ)
初球、内角高めにカーブ。見逃しストライク。
2球目、内角低めにスライダー。見逃しストライク。
3球目、外角低めにスライダー。空振り三振。スリーアウトチェンジ。
(ストレート狙いがバレバレだよ。もうちょっとうまくやんないと。まっ、俺がキャッチャーじゃなかったら見逃してたかもね)
7回の裏が始まる前、森崎監督は選手達に檄を飛ばした。
「おいお前ら! もう7回だっていうのにまだたったの6点しか入ってないぞ。今日は30試合連続二桁得点記録がかかってるんだ! あと最低4点は取ってもらわないと困るぞ!」
「はい!」
7回の裏。この回からマウンドに上がるのは暫定エースの黒山。そして、打席に立つのは9番バッターの投手佐藤。船町北の外野陣は、前進守備のシフトについた。
初球、内角にストレート。見逃しストライク。
2球目、外角低めにカーブ。空振り。
3球目、外角高めにストレート。空振りの三振。
続く1番バッターの清村兄は、ネクストバッターズサークルから黒山の投球をじっくりと観察してから打席に上がった。
(なかなかいい球を投げるな。だけど、打てないほどでもないかな)
船町北の外野陣は、引き続き前進守備についている。
(またさっきと同じ作戦か? まっ、とりあえず1球様子を見るか)
初球、内角高めにストレート。見逃しストライク。
(なんだ今の球は! さっきまで投げてた球と全然質が違うじゃねえか! 前の打席は投手の佐藤相手だから力を抜いて投げていたって訳か)
2球目、内角高めのさっきと同じコースにストレート。清村兄はフルスイングでバットを振るも当てることすらできず空振りを食らう。
(さらにスピードが上がった。なるほど、さっきからずっと外野の前進守備をやめようとしない理由がわかった。それだけ長打を打たれない自信があるってことか。しょうがない、今回は欲張らず内野と外野の間に落とすか)
3球目、外角低めにストレート。清村兄は見事なバットコントロールでその球を捉えるも、球の勢いに押されサードへのショートフライに終わった。
(サードとレフトの間に落とすつもりだったがこの様か。黒山聡太、久々に対戦しがいのあるピッチャーに出会ったな。次の対戦が楽しみだ)
続く2番バッターの小林を迎えたところで、船町北の外野守備は再び定位置に戻った。
初球、外角にストレート。空振り。
2球目、内角ギリギリにストレート。見逃しストライク。
3球目、外角低めにスライダー。空振りの三振。
黒山はこの回、1人のランナーも許すことなく打者3人をそれぞれ3球ずつ、わずか9球で完璧に抑え込んだ。
船町北 3-6 龍谷千葉
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