安達弾~打率2割の1番バッター~ 第6章 春季大会3回戦 船町北VS千葉修道
春季大会3回戦。船町北の相手は去年の夏の甲子園ベスト4、秋季大会ではベスト8と実力的には船町北とほぼ同格の千葉修道高校。守備に定評がある船町北とは対照的に千葉修道は打撃のチームとして知られており、今日の試合で4回1失点以内という課題を出されている水谷と白田にとってはなかなか厳しい相手だった。
先発の水谷は、カーブ、シンカー、スライダー、シュートと右アンダースローから放たれる多彩な変化球を低めに集める投球で1、2回を1安打無失点に抑えた。しかし、打者が一巡した3回途中から上位打線に連続安打を許し、ツーアウト満塁という大ピンチを迎えてしまう。しかも相手は4番バッターの真山元太。前の打席でも水谷が安打を許した相手だ。
(このままだとまずいな。しょうがない。龍谷戦まで取っておくつもりだったが、アレを使うしかないな)
水谷はキャッチャーの鶴田に合図を出した。
(とうとうアレを使うのか。ようし、千葉修道を驚かせてやるぞ)
水谷が投げた初球は、ど真ん中のストレート。いつもならこんな甘いコースの球を見逃さない真山だったが、さすがにこの球には手が出なかった。なぜなら、さっきまでアンダースローだった水谷が突然オーバースローで投げた球だったからだ。
(なんだこいつ。オーバーとアンダー両方使えんのか?)
続く2球目はオーバースローからの高めの真ん中ストレート。見逃しストライク。
(球速は140キロくらいか。アンダーの遅い球を見慣れていたせいか速く感じるな。だが、打てない球ではない)
そして3球目。今度はアンダースローからの高めのストレート。オーバースローからのストレートとは球速も軌道も全く違う球に完全にタイミングを狂わされた真山は空振りの三振に打ち取られた。
続く4回もアンダースローとオーバースローを組み合わせたピッチングで千葉修道打線を翻弄し、水谷は4回を無失点に抑えた。
5回から投げ始めた白田は、右サイドスローからのスライダーとシュートで横に揺さぶる得意の投球術で下位打線を2者連続三振に抑えるも、1、2番にはしつこくカットで粘られて連続四球を出してしまう。そして3番バッターはうまく打ち取ったと思った当たりが一塁を守っていた安達のちょっとした判断ミスでポテンヒットとなってしまい、いきなりツーアウト満塁のピンチを迎える。しかもバッターはまたもや4番の真山。
(水谷の勢いに乗っかって俺も抑えてやるぞって思ってた矢先にこのピンチかよ。しょうがない。俺も龍谷戦まで取っておこうと思ってたアレを解禁するか)
白田はキャッチャーの鶴田に合図を出した。
(白田、お前もか。まあこのピンチじゃ出し惜しみしてられないな)
白田が投げた初球は、ど真ん中に向かっていく。
(よし、甘い球)
真山がそう思ってフルスイングしたバットを避けるように球は沈んでいった。
(クソ、フォークボールか。厄介な球だがいきなりオーバースローで投げてくるとかよりはまだましか)
続く2球目は外角からボールゾーンに逃げていくスライダー。見逃しボール。
そして3球目は内角に食い込むシュート。真山はゴロを打たされてアウト。
(クソ! 打てる球だったのに一瞬あのフォークボールが頭によぎって反応が遅れた)
横の揺さぶりに加えてフォークという縦の変化が加わったまさに縦横無尽な投球術で、白田はその後も千葉修道打線に付け入るスキを与えず、8回までを無失点に抑えた。
一方打線の方はというと、安達のホームラン1本を含む3安打4打点の活躍と黒山のソロホームランで5点を奪っていた。
そして9回表。
(水谷も白田も無失点か。俺も負けてらんねえな)
水谷と白田の投球に触発された黒山は、一昨日に1人で10回を投げ切った疲れを全く感じさせない圧倒的な投球で3者連続三振に打ち取り試合を締めくくった。
千葉修道 0-5 船町北
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