安達弾~打率2割の1番バッター~ 第5章 春季大会2回戦 船町北VS三街道④

2020年11月8日

「カキーン!!」

 打球は綺麗な放物線を描きながら、外野フェンスギリギリのところでライトを守っていた角田のミットに吸い込まれた。

「スリーアウトチェンジ!」

「おい細田! 何だよ今の球は! コースも甘いしスピードもキレもない。もう少しで二者連続ホームラン打たれるところだったぞ」

「ああ、悪いな太田……」

「おい細田、なんだよ死んだような顔して。まだ試合は終わってねえぞ。次は俺の打席が回ってくる。そこでホームランを打てば同点だ。早く立ち直ってもらわないと困るぞ」

「ああ、悪いな角田……」

(ダメだこりゃ。こうなったらこの回で逆転してサヨナラ勝ちするしかねえな。そのためにはまず俺の打席が回ってくる前に意地でも塁に出てもらわないと……)

「ストライク・ワン!」

「ストライク・ツー!」

「ストライク・スリ―!」

(三球三振……ていうかこのピッチャー、これで8者連続三振だ。そして俺が9人目。これはさっき細田が1年にホームランを打たれたのと同じ状況。これは俺がホームランを打つ展開しか想像できないな)

 黒山VS角田、本日4回目の対戦。

 1球目のカーブは大きく高めに外れ、続く2球目のスライダーはワンバウンド投球となりノーストライクツーボールとなった。

(おいおい、全然ストライク入らねーじゃねえか。フォアボールだけはやめてくれよ)

 3球目は外角低めのストレート。見逃しストライク。

(ほう、ストレートだけはまだコントロールできてるみたいだな。しかしさすがに球威とスピードは落ちてるな。これなら打てる)

 4球目は外角高めのストレート。空振り。

(全然球威もスピードも落ちてねえじゃねえかよ。さっきのストレートはコントロール重視で投げただけだったのか。さて、次はどうくる? 力のあるストレートか、それともコントロール重視のストレートか。相手はきっと9者連続三振を狙ってくるはず。ならば空振りが期待できる力のあるストレートで勝負してくる可能性が高い。よし、完璧な読みだ。お前のそのストレートを完璧に捉えてやる)

 5球目は角田の予想には全く出てこなかったまさかのカーブ。しかしその球は大きく外角に外れてボール球となった。

(あっぶねー。もう少しコースにきていたらバット止まらなかったかもな。だがこれでツースリー。さすがにもうコントロールのできてない変化球は投げてこないだろう。今度こそ力を込めた全力ストレートで勝負にくるはず。そしてそのストレートを、この俺が完璧に打ち返してホームランにしてやるぜ)

 そして、運命の6球目。黒山の投じた球は……まさかまさかのカーブだった。

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 これは9回裏。黒山が三街道打線を7者連続三振に打ち取ってチェンジした後の黒山と鶴田の会話。

「黒山、大分コントロールが乱れてきたな。スライダーは全部ワンバンするし、ストレートも2回に1回は高めに浮いてる。安定してるのはカーブくらいか。もう交代してもらうか?」

「おいおい冗談言うなよ。コントロールはともかく今日のストレートは過去一の出来だぞ。多少高めに浮いても球威があるおかげで空振りしてくれるし、このまま押し切れるだろ」

「いいや。あいつだけはどうかな。3番の角田だ。前の打席でもボールには当てていたし、何よりスイングスピードがえげつない。このままじゃ次の打席で打たれるぞ。やっぱり交代してもらうか?」

「しつこいぞ。絶対交代なんてしねえよ。この回で逆点して、その裏を俺が10者連続三振で華麗にしめる。この俺の完璧なプランの邪魔すんなよ」

「わかったわかった。その代わり、次の回は全部俺のリード通りに投げてくれよ。お前のその完璧なプランを実現させてやるからさ」

「了解! 頼りにしてるぜ」

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 1球目の大きく高めに外れたカーブ。そして5球目の大きく外角に外れたカーブ。この2球はいずれも角田にカーブはコントロール出来ていないと印象付けるための撒き餌だった。そして6球目。角田の頭の中には、ストレート以外の選択肢が頭になかった。

(おっ、これは内角高めのストレートだ!)

 そう思った瞬間バットを振り始めた角田だったが、ボールはそこから外角低めに落ちていきバットは空を切った。

「ストライク・スリ―!」

 そして続く最後のバッターも黒山は見事三振に抑え、試合は幕を閉じた。

 船町北 2-1 三街道