安達弾~打率2割の1番バッター~ 第5章 春季大会2回戦 船町北VS三街道③

「高木ナイスプレー!」

「どんぴしゃの送球だったな高木!」

「イチローみたいだったぞ高木!」

 三街道ナインはファインプレーで7回の船町北の攻撃を終わらせたセンター高木を口々に褒め称えながらも、心の中ではこんなことを考えていた。

(さっきの打球やばかったな)

(あの低い弾道であそこまで飛ぶのかよ)

(高木のファインプレーというよりも、打球スピードが速すぎてアウトになった感じだったな)

「ナイスヒット!」

「よく打った!」

「これでやっと振り出しに戻ったな」

 船町北ナインはヒットで同点にした安達を口々に褒め称えながらも、心の中ではこんなことを考えていた。

(ベースランニング下手だったな)

(スライディングしてれば間に合ったかもな)

(守備錬しかしてなかったつけがこんな所にでちゃったか。次の試合までに走塁も練習させないとな)

 7回裏。黒山は先頭バッターをあっさりと三振に打ち取った。そして本日3回目の角田の打席が回ってきた。

(さっきの打席は甘いコースの球がこなかったが、試合も終盤。さすがに細かいコントロールは効かなくなってきているはずだ。ちょっとでも甘いコースにきたら絶対逃さねえぞ)

 そんな角田に黒山が投じた初球のストレートは、外角低めに投げるはずが予定よりも中よりの高めにいってしまった。

(よしきたー! これをホームランにしてまた逆転してやる)

「カーン!」

 角田が打った打球はボールの下を叩いてキャッチャーフライとなった。

(クソ! 思ったよりボールが伸びてきやがった。まだまだ元気じゃねえかこのピッチャー)

 その後も黒山はさらに好投を続け、次のバッターを三振。さらに8回9回と7者連続の三振に打ち取った。一方細田の方も負けじと、8回、9回、そして延長の10回2アウトまでなんと8者連続の三振に打ち取っていた。そしてあと1人で9者連続の三振となるこの場面で、安達の打席が回ってきた。

(ここであの1年生の打席か。さっきの打席はあわやホームランかって感じのすげーヒット打たれてるし念を入れて敬遠しておくべきか。いやいや。そんな弱気でどうする。さっきの打席はきっとカーブに山を張っていてたまたま打てただけ。そして今の細田はあのヒットを打たれてから明らかに変わった。きっと1年にあんな当たりのヒットを打たれたことがよっぽど悔しかったんだろうな。球速、キレ共に過去最高の状態だ。今の細田なら絶対に負けるはずがない)

 太田は細田に内角高めのストレートのサインを出した。

(良かったー。勝負させてもらえないかと思ってハラハラしたぜ。さっきの借りを返してやらないとスッキリしないからな。ここでこの1年を三振に抑えれば9者連続三振。仕返しにはもってこいのシチュエーションだ。全身全霊のストレートで完璧にねじ伏せてやる)

 細田の投じた球は、力が入り過ぎたのかコントロールが乱れ安達の顔面近くのビーンボールすれすれの球になってしまった。しかし安達は、体を反らすどころか瞬きひとつせずにゆうゆうとそのボールを見送った。

(こいつ、また避けようとしなかったな。前の打席はそれで考え過ぎた結果カーブを投げさせて打たれてしまったが、同じ轍は二度と踏まない。コントロールはともかく球の質は悪くない。このストレートなら絶対押し切れる)

 太田は細田にまた内角高めのストレートのサインを出し、細田も今度は要求通りのコースにストレートを投じた。

(おっ、また内角高めのストレート。この感じだとストライクゾーンにくる。これなら打てるな)

 安達は細田がストレートを投じてからベース上に球が到達するまでの約0.44秒間にこのようなことを瞬間的にはじき出しながらバットを振った。

「カキーン!!」

 打球は綺麗な放物線を描きながら、ライト外野席上段へと吸い込まれていった。

 船町北 2-1 三街道