安達弾~打率2割の1番バッター~ 第31章 夏の甲子園開幕⑧

 2017年8月9日。超満員の観客達が詰めかける中、夏の甲子園2日目の第3試合、船町北VS秋田腕金の試合が今始まろうとしていた。

 船町北高校スターティングメンバー

 1 星(中)
 2 野口(二)
 3 安達(一)
 4 山田(右)
 5 石川(三)
 6 佐々木(遊)
 7 滝沢(左)
 8 西郷(捕)
 9 比嘉(投)

 秋田腕金高校スターティングメンバー

 1 木下(中)
 2 中田(三)
 3 三浦(左)
 4 菊池(捕)
 5 古田(投)
 6 菅田(右)
 7 佐藤(一)
 8 鎌田(二)
 9 小松(遊)

 1回表。秋田腕金先発の古田がマウンドに上がり右で投球練習を始めると、船町北ナイン達はがっくりと肩を落とした。

「くそー右か」

「あのナックルは打てる気しねえぜ」

「左が良かったなあ」

「お前らそんなあからさまにガッカリすんなよ。ほら、出塁さえできれば盗塁し放題だぞ。さっさと気持ちを切り替えて、意地でも出塁してこい」

 そう鈴井監督に背中を押されて、いざ打席へと向かう1番星と2番野口だったが……。

「ストライク! バッターアウト!」

(出塁するどころか)

「ストライク! バッターアウト!」

(バットにかすりすらしねえ)

 古田のナックルを前に2者連続の空振り三振に倒れてしまった。秋田腕金にとっては幸先の良いスタートだが、一方で先発の古田は不満そうな顔をしながらこう呟いていた。

「ちぇっ、さっさと打ってくれよ」

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 この試合の前日。古田に右で先発して欲しい安田監督とキャッチャー菊池、それに対して左で先発したいピッチャー古田の3人は、しばらく口論を続けていた。

「チームのためにも右で先発してくれよ」

「監督もこう言ってるし、頼むぜ古田」

「絶対嫌だ。明日は左で投げる」

「ならこういうのはどうだ? 最初は右で先発してもしも1点でも相手に取られたら、すぐに左にスイッチする。これなら文句ないだろう」

「なるほど。じゃあもしも最初の回で1点でも取られたら、もうそこからは最後までずっと左で投げて良いってことっすよね」

「ああ、それで問題ない」

「わかりました。それで妥協しましょう」

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(1番か2番バッターがホームランでも打ってくれれば、いきなり念願だった安達との真剣勝負を左でできると思ってたのにな。まあいいや。きっと安達なら、俺のナックルをホームランにしてくれるはず。これで2打席目以降は、左で真剣勝負ができるぞ)