安達弾~打率2割の1番バッター~ 第31章 夏の甲子園開幕⑦

 2017年8月9日。この日行われた船町北VS秋田腕金の試合は、秋田腕金高校がリードしていた。

      123456789 
 船町北  000000
 秋田腕金 000101

 船町北の投手陣から2点を奪った秋田腕金打線に対して、船町北打線はこの日右で先発した古田のナックルをまともに捉えることができないまま7回2アウトまでパーフェクトピッチングをされていた。ここで打席に立つは、1打席目と2打席目共に空振り三振に倒れていた安達だった。

「安達! お前だけが頼りだ!」

「頼む! 何とか完全試合だけは阻止してくれ!」

 そんな味方からの声援を受け、何とか期待に応えたい安達だったが……。

「ブン!」

「ストライク!」

「ブン!」

「ストライク!」

 空を切るスイング音が虚しく響き渡る。

(ダメだ。全然打てる気がしない。何だよこのナックル。滅茶苦茶な動きしやがって。まるで生きてるみたいじゃねえか)

「ブン!」

「ストライク! バッターアウト! チェンジ!」

 その後も船町北打線は古田のナックルに翻弄され続け、全く見せ場を作ることさえできないまま、古田に完全試合を達成されあっけなく敗北。船町北、そして安達にとっても初出場となった甲子園デビューは、屈辱的な結果で幕を閉じたのであった。

      123456789 計 
 船町北  000000000 0
 秋田腕金 00010121✕ 5

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「……ぐぞー全然うでながっだー」

「おい安達! 何寝ぼけてるんだ。早く起きろ。甲子園に着いたぞ」

「んっ? あっ、何だ夢か」

「何かうなされてたみたいだけど、どんな夢だったんだ?」

「秋田腕金に負ける夢」

「これから試合するって時にそんな縁起の悪い夢見てんじゃねえよ。さあ、早く降りた降りた」

(正夢にならないといいけど)

 そんな一抹の不安を抱きながら、バスを降りた安達。

 それから1時間後。

(やばい、もしかしたら本当に正夢になっちゃうかも)

 マウンドに上がった古田が夢で見た時と同じ右で投球練習するのを見て、安達の不安は増すばかりであった。