安達弾~打率2割の1番バッター~ 第31章 夏の甲子園開幕⑥

「古田、やる気になっているところ申し訳ないが、明日は右で先発してもらおうと思っている」

「はあ?」

「俺も監督の意見に賛成だ」

「菊池、お前まで何言ってんだよ」

「安達はな、160キロのストレートに140キロの変化球を織り交ぜたピッチングマシーンからも簡単にホームランを連発するようなバッターなんだぞ。そんな相手に左で真っ向勝負を挑むよりも、恐らくまだ安達が経験したこともないであろうナックルで勝負した方が勝算は高いはずだ」

「菊池の意見に付け加えると、俺は3回戦の大阪西蔭戦でも右のナックルで勝負した方が良いと考えている。秋田では通用した左のストレートや変化球も、全国の猛者達と戦いなれている大阪西蔭打線には通用しない可能性も十分に考えられる。だがな、お前ほどのナックルを投げる奴は全国の高校どころかプロでもそうはいない。だからきっと大阪西蔭打線相手でも通用するはずだ。という訳で、初戦は右、2回戦は左、3回戦は右と先発していくのがローテーション的にもベストだろう」

「おいおい、勝手に左が通用しないとか決めつけんなよ。第一、右のナックルじゃ船町北の連中に走られまくるぞ」

「どうせ左で投げたとしても走られる。ならば、いっそのこと走られるのは仕方がないと割り切って右のナックルでバッターだけに集中して勝負した方が戦いやすいだろう」

「俺も監督の言う通りだと思うぜ」

「何だよ2人して。せっかく秋田にはいない、安達みたいな凄いバッターと対戦できるチャンスだってのに。勝負の駆け引きもクソもない、ただずーと運任せでナックルボールを放り続けるだけの勝負なんてつまんねえよ」

 安田監督とキャッチャー菊池とピッチャー古田、3人の口論はその後しばらく続いた。果たして、明日古田は左で先発するのか、それとも右で先発するのか、一体どうなるのでしょうか?