安達弾~打率2割の1番バッター~ 第31章 夏の甲子園開幕⑤

「船町北は投手陣だけじゃなく打線も相当厄介だ。いくら古田でも、完封できる保証はないぞ」

「俺も菊池の意見に同意だ。船町北の選手はとにかく全員足が速い。普通なら内野ゴロになるような当たりでも、内野安打になったシーンを何度も見てきた。そして盗塁の技術も非常に優れている。菊池の肩は秋田県内では3本の指に入るくらいには優れているが、それでも船町北の盗塁を阻止できるかと言われたら、かなり厳しいと言わざるを得ない。そして何より、安達弾、このバッターは本当にヤバい。つい1年ちょっと前まではただの野球好きのおっさんだった俺が見てもわかるほど、こいつの実力は高校生のレベルを軽く凌駕している。秋田どころか、全国を探してもこのレベルのバッターはほとんど存在しないだろう」

「いくら凄いと言っても、古田ならきっと抑えられますよ」

「だよな古田?」

「抑えられるかどうかなんて、対戦してみなきゃわかんねえよ」

 いつも強気な発言しかしない古田の珍しく弱気な発言に、一瞬不穏な空気が流れる。

「正直俺、最近退屈してたんだよ。秋田の予選の時は、対戦する前から負ける気がしないような骨のないバッターばかりだったからな。だけど安達が打席で打ってる映像を見た時、久しぶりに思ったんだ。こいつには、もしかしたら負けるかもしれないってな。こんな気持ち、久しぶりだぜ」

 弱気な発言とは裏腹に、闘争心を剥き出しにしながら不敵な笑みを浮かべる古田。

「監督、明日は左で投げさせてくれ。さっきから黙って聞いてりゃ、やれ変化球は俺より上だとか、ストレートのキレは俺より上だとか、球速は俺より上だとか散々言ってくれたな。明日のピッチングで証明してやるよ。俺の投球が全ての面において、船町北の投手陣を上回っているってことをな」