安達弾~打率2割の1番バッター~ 第30章 もうすぐ夏の甲子園開幕⑨
『古田君から飛び出した驚きの提案に、最初は安田監督もチームメイト達も反対しました』
「そんなの無理に決まってるだろ」
「それなら俺が投げた方がまだましだわ」
「何十点取られることやら」
『キャッチャーの菊池君を除いては……』
「いや、もしかしたらワンチャンあるかも」
「いやいやワンチャンすらねえよ」
「俺はな、古田と毎日キャッチボールしてるから知ってるんだよ。古田の右手から放たれる、ナックルの恐ろしさをな」
「ナックルだって!」
「古田お前、そんな球を隠し持ってたのかよ」
「まあ遊びで投げてた程度だけどな」
「右の古田の球も菅田の球も受けたことのある俺なら断言できる。明日の決勝戦、菅田が投げるよりは古田が右で投げた方が勝率は高くなるはずだ。まっ、高いと言ってもせいぜい1%てとこだけどな」
「わかった。どっちみち負けが濃厚なら、1%でも可能性のあるエースの古田に投げてもらおう」
『こうして迎えた決勝戦。対戦相手は過去10度の甲子園出場経験がある強豪桜館高校。投球練習を始めた古田君を見て、満員に埋め尽くされたスタジアムにいる観客達はざわめき、解説者達も驚きを隠せませんでした。当時放送されたVTRで、困惑する解説の山田さんと伊達さんの様子をご覧ください』
「おやおや、おかしいですよ。何で右で投げているのでしょうか?」
「古田君は左のはずですよね?」
「しかも随分遅い球ですね」
「これはもしかしたら、ナックルじゃないですか」
「今まで左で投げてきた古田君ですが、ここにきて右にチェンジですか。こんなの前代未聞ですよ」
「我々は夢でも見ているのでしょうか?」
『こうして始まった決勝戦。普通に考えれば、練習のキャッチボールでしか投げたことのない右で登板なんてしたら、初回から打ち込まれるか、そもそもストライクすらろくに入らずフォアボールを連発して大量失点をしてしまう。そんな状況が容易に想像されますが、試合は予想外の展開を迎えます』
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