安達弾~打率2割の1番バッター~ 第30章 もうすぐ夏の甲子園開幕⑧

『腕金シニアの9人、特にエースの古田君の元には、地元秋田だけには留まらず全国各地の強豪校からオファーが殺到しました。しかし、小学生の頃から同じチームでやってきた固い絆で結ばれた9人は、そのオファーを全て断り、当時は野球部がなかった地元の秋田腕金高校への進学を決めたのです』

 ここで、ユーチューブの広告が入った。

「うわ、こんないいところでうざいな」

「しかもスキップできない30秒のかよ」

「にしても改めてこうやってみると、このチーム応援したくなるな」

「今時たったの9人で甲子園を目指すなんて、いかにも世間受けしそうなチームだ」

「おっ、広告やっと終わったな」

『秋田腕金高校に入学した9人は、早速野球部を新たに作ると、どこの部活の顧問もしておらず暇だった野球好きの安田先生が監督となり、甲子園を目指して練習に励みました。野球部創立からわずか1か月後に出場した春季大会では、いきなりベスト8まで残る活躍を見せると、夏の甲子園予選ではなんと決勝戦まで勝ち残りました。創立1年目、レギュラーわずか9人、しかも全員が1年生というチームが、あと1勝で甲子園出場を決めるという前代未聞の快進撃に、秋田県民のみならず全国の高校野球ファン達がこの決勝戦に注目する中、腕金高校野球部では緊急事態が起きていました』

「監督、大丈夫ですよ。あとたったの1試合くらい投げられますって」

「いいやダメだ。病院の先生だって言ってたじゃないか。しばらくは絶対に安静だって」

『実は準決勝が終わった直後、左腕の違和感を感じた古田君が病院に行くと、先生からこんな診断をされていたのです』

「君ねえ、投げ過ぎだよ投げ過ぎ。今まで相当無理して投げてきたでしょ」

「別に無理なんか」

「嘘をつぐな。この左腕の筋肉を見ればわかる。今まで壊れなかったのが不思議なぐらいだ。取り合えず、しばらくは投球禁止な」

『医者の忠告を無視してでも甲子園出場を決める決勝戦で投げたい古田君と、それを必死で止める安田監督』

「とにかく、絶対に投げさせんぞ。菅田、明日はお前が投げろ」

「えっ? マジっすか。俺、練習試合くらいでしか投げたことないのに」

「ほら、困ってるじゃないですか。やっぱり俺が投げるしかないんすよ」

「実はな、この部活の顧問を引き受けることになった時、野原さんからお願いされていたんだ。もしも古田が少しでも腕や肩を痛めたりしたら、医者の言うことを聞いて絶対に無理はさせないでください。あいつは将来プロを目指せる逸材だからってな」

「えっ……」

「まだまだ新米監督の俺の言うことを素直に聞けないのも無理はない。だがな、恩師の野原さんの想いまでは無下にするなよ」

「野原監督がそんなことを……わかりました」

「そうかそうか。ようやく納得してくれたか」

「ですが、やっぱり明日は俺が投げます」

「おいおい、全然わかってないじゃないか。これ以上投げたら、左腕が壊れるぞ」

「わかってます。だから左では投げません」

「左では投げない? ということは……」

「右で投げさせてください」