安達弾~打率2割の1番バッター~ 第30章 もうすぐ夏の甲子園開幕⑦

「古田、もうナックルは諦めろ。お前の持ち味はキレのあるストレートだろ。変化球はあくまでもそのおまけくらいに考えておかないと。このままじゃ投球全体が崩れるぞ」

「わかったよ。もうナックルは投げない」

『キャッチャーの菊池君にそう諭されて、ナックルを投げるのはやめることにした古田君でしたが……』

「今日の練習はこれで終わりだ。古田、最後にいつもの調整やっておけよ」

「はい!」

『監督にそう言われ、いつも通り利き手と逆の手で菊池君相手にキャッチボールを始めた古田君』

「はぁ、ナックル投げてみたかったなあ」

『古田君はそう言いながら、ふいに利き手とは逆の手でナックルの握りをして球を投げました。すると……』

「うわっ! おい古田、何だよ今の球は。何か変な変化したぞ」

『なんと古田君は、菊池君が思わず球を逸らしてしまうほどの変化をするナックルを、いきなり投げることに成功してしまったのです。この時のことについて、古田君本人にインタビューしました』

「利き手の左では投げられなかったナックルを、なぜ利き手とは逆の右手でいきなり投げられたのだと思いますか?」

「実は僕、元々は右利きなんですよ。でも小学3年生の時にエースっていう野球アニメを見て、その主人公が左投げだったので、僕もその主人公に憧れて左利きに矯正したんです。なので厳密には両利きなんですけど、元々の利き手だった右の方がより繊細な指の感覚が求められるナックルを投げるのに適していたのかも知れませんね」

『この日以来、右手でキャッチボールをする際は、度々ふざけてナックルを投げては菊池君を困らせていたそうです。そんな訳で、試合で投げる左手ではナックルを封印した古田君でしたが、その後もシュートやチェンジアップなど新しい変化球を覚えながら、持ち味のキレのあるストレートもどんどん進化していき、いつしかエースの古田君要する腕金シニアは、秋田では名の知れた強豪チームへと成長していきました』