安達弾~打率2割の1番バッター~ 第30章 もうすぐ夏の甲子園開幕⑤

『2017年7月25日。夏の甲子園秋田大会決勝戦。見事甲子園進出を決めたのは、部活が創立してからわずか2年、しかも部員はわずか9人という秋田腕金高校野球部でした』

 エースの古田がラストバッターをストレートで空振り三振に打ち取り、甲子園進出を決めた秋田腕金ナイン達が喜び合う映像をバックにして、番組のタイトル名である、奇跡の二刀流 秋田腕金高校野球部の軌跡というテロップが映し出された。

『腕金高校の野球部員は、全員が2年生。小学生時代から地元で一緒に野球をしてきた幼馴染です』

 小学生時代の選手達に扮した子供たちの、再現VTRが始まる。

「なあなあ、昨日のエース見た?」

「見た見た。めっちゃ面白かったな」

「なんかあのアニメ見てるとさ、野球やってみたくならね?」

「わかる。俺もめっちゃやりたい」

「でも父さんに聞いたんだけど、この地域には少年野球のチームないんだってさ。それで考えたんだけど、俺達で9人集めて新しく野球チームを作ろうよ」

「いいね。おもしろそう」

『当時流行っていた野球アニメの影響で、野球チームを作ることにした小学生2人。この2人がのちの腕金高校バッテリーとなる、ピッチャー古田輝希君とキャッチャー菊池亮介君でした』

「なあなあ、俺達と野球やんね?」

「ねえねえ、野球に興味ない?」

『同じ小学校の同級生達に声をかけて回り、何とかメンバーを9人丁度集めることができたのでしたが……』

「ピッチャーは俺でいいよな?」

「えーダメだよ。僕がやりたい」

「俺もピッチャーがいい」

「僕も」

『やりたいポジションを巡って喧嘩が勃発。そこで、このままではらちが明かないとポジションは全てくじ引きで決めることに』

「やったー俺がピッチャーだ」

「よし、キャッチャー」

「ファーストか。まあ結構守備機会が多そうだし面白そうだからいいか」

「セカンドかよ。本当はピッチャーが良かったのに」

「ねえねえ、ショートってどこ守ればいいの?」

「エースに出てくる4番バッターのてっちゃんと同じサードだ。やったぜ」

「センターか。足の速い俺にはぴったりだな」

「ピッチャーにはなれなかったけど、ライトを守る俺の強肩でランナー刺しまくってやるぜ」

「正直運動神経にはあまり自信ないから、レフトで良かったよ」

『こんな適当な決め方で決まったポジションでしたが、まさか8年以上経った今でも、このメンバーもポジションも不動のまま甲子園出場を決めることになるとは、この時はまだ誰も知る由もありませんでした』