安達弾~打率2割の1番バッター~ 第30章 もうすぐ夏の甲子園開幕③
「船町北高校、Bの5です」
(ガーン。よりによってそこを引くとは。星の奴め)
頭を抱える鈴井監督。しかし、いつまでも落ち込んでいる訳にもいかないと、鈴井監督は前向きに考えることにした。
(甲子園は日程が進めば進むほど過密スケジュールになっていく。ということは、医者から連投を禁止されている比嘉を抱えているうちとしては、強豪校には序盤のうちに当たっておいた方が有利だ。かと言って、まだ甲子園の雰囲気に慣れていない初戦や2回戦で当たるのはきつい。つまり、3回戦で大阪西蔭と当たるこの日程は、うちが甲子園優勝を狙うためにはむしろ1番理想的なんじゃないか。そうだそうだ。全然落ち込む必要などない。よくやったぞ星)
鈴井監督がそんなことを考えている間にも抽選会は進んでいき、最後から2番目の高校がくじを引く順番となった。
「秋田腕金高校、Aの5です」
(Aの5ってことは、初戦の対戦相手はあそこか。秋田腕金高校って、どこかで聞き覚えがあるような。えーと……)
鈴井監督は何か思い出すヒントになればと、抽選を終えた秋田腕金高校キャプテンの顔を凝視した。
(あっ! 思い出した。というかなぜ俺はあの今話題の高校を注視していなかったんだ。初戦で当たる相手としては、下手したら大阪西蔭以上にやりにくい相手だというのに。これはまずいことになったぞ)
時を同じくして、宿舎の一室に集まった船町北高校の選手達は、抽選会の行方をテレビの前で見守っていた。
「うわーマジかよ!」
「よりによって腕金か」
「3回戦で大阪西蔭に当たるってだけでもついてねえのに」
「マジで運に見放されたな」
ネガティブな反応を見せる選手達が多い中、安達はポカーンとした顔をしていた。
「おい安達、何ボケっとしてんだよ」
「いや、何でみんなそんなに大騒ぎしてるんだろうと思って。秋田腕金高校でしたっけ? そんなに強いチーム何ですか?」
「まさか安達、秋田腕金高校を知らいのか? お前本当そういう所抜けてるよな。最低限高校野球のニュースくらいはチェックしとけよ」
「そんなに有名何ですか?」
「有名も何も、今回の大会で今1番注目されていると言っても過言ではないくらいたい」
そう言って話に割り込んできたのは、西郷だった。
「ちょうど昨日の夜、ユーチューブで見た動画が……あったばい。この動画を見れば、秋田腕金高校の、特にエースでキャプテンの古田輝希についてよくわかるたい」
西郷がそう言って見せてきたスマホ画面には、ユーチューブに違法アップロードされた、地元秋田のテレビ局で放送された秋田腕金高校の特集番組が映っていた。
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