安達弾~打率2割の1番バッター~ 第30章 もうすぐ夏の甲子園開幕⑯

 秋田腕金高校のキャプテン古田が抽選会のくじを引いた瞬間、秋田腕金高校野球部が泊っている宿舎の一室では、こんな話し合いがされていた。

「初戦は船町北か」

「初出場の高校か。聞いたことないな」

「千葉と言ったら強力打線の龍谷千葉高校が有名だけど、あそこを倒して勝ち残ってきたとしたら油断できない相手だぞ」

「いや、今調べてみたけど、龍谷は準決勝で違う高校相手に敗れたらしい」

「なるほどな。つまり優勝候補がこけてくれたおかげで甲子園に出場できたラッキーチームってことか。ようし、とりあえず初戦は勝てそうだな」

「しかし問題は3回戦だ」

「優勝候補筆頭の大阪西蔭か。まっ、古田ならきっとどんな強豪だって抑えてくれるはずだ」

「むしろ問題は、俺達がどうやって点を奪うかだな」

 初戦は楽勝そう。そんな油断をしているチームメイト達を引き締めるべく、キャッチャーで副キャプテンの菊池が一括する。

「おいお前ら! 今から3回戦の話なんて気が早過ぎだぞ。まずは初戦をしっかり勝ち上がることを考えろ。優勝候補がこけたから出場できたラッキーチームだって? そんな訳ないだろう。運だけで出場できるほど、甲子園は甘いもんじゃない。今からしっかり船町北高校について研究していくぞ」

「おっ、おう」

「相変わらず菊池は真面目だな」

「お前らがゆる過ぎるから真面目にならざるを得ないんだよ」

「頼りにしてるぜ副キャプテン」

「ていうか実質、菊池がキャプテンみたいなもんだよな」

「古田はひたすら自分のことしか考えないタイプだし」

「ホント、あいつは自分勝手だよな」

「ひたすら自分が上達することしか考えてない」

「本来キャプテンなんかやるタイプじゃないんだよあいつは」

「ただそれでも、キャプテン決めの時には満場一致で古田に決まった」

「どんだけ自分勝手だろうが」

「キャプテンには向いてなかろうが」

「いつもストイックに練習に向き合う姿勢と圧倒的な実力だけで、何だかんだチームをまとめ上げている」

「俺達が甲子園に来れたも、結局はあいつのおかげだしな」

「もしかしたら1番のラッキーチームは、古田を味方にできた俺達のチームなのかもしれないな」

「おいお前ら、いつまでも古田におんぶにだっこじゃいられねえぞ」

「はいはいわかりましたよ」

「あれだけテレビでも特集してもらったのに、1回戦敗退じゃ洒落になんねえもんな」

「ようし、5日後の初戦に向けて船町北対策を徹底していきますか」