安達弾~打率2割の1番バッター~ 第28章 夏の甲子園千葉大会決勝 船町北VS三街道⑨

 2回表。マウンドには細田兄、そして打席には4番バッターの山田が入る。

(こいつがもう1人の要注意人物……山田か)

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 これは決勝戦前日。三街道高校で行われていたミーティングにて、安達の攻略法について説明したあとのことだった。

「あっ、そうそう。安達君以外にも、船町北打線には要注意人物がいます。それは山田君です。安達君と比べれば見劣りしますが、安達君の後ろを任されているだけあって中々いいスイングをしています。安達君のように低めは絶対に打てないなどといった明確な弱点も見当たらない分、もしかしたら安達君以上に厄介かもしれません。なので2人共、心して投げてください」

「はい!」

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(こいつが本当にそれほどの実力者なのかは置いといて、ノーアウトでランナーは出したくない。絶対に抑えるぞ)

 一方で、打席に立つ山田は、前の回での安達に対する細田弟の攻め方が気になっていた。

(全球低めにしか投げていなかった。まるでそこが、安達の弱点かとわかっているかのように。これは俺の思い過ごしかもしれないが、もしも当たっていたら、安達はこの試合1度もホームランどころか出塁すらできないかもしれない。こんな状況で点を入れるためには、4番の俺がなんとかするしかねえ!)

 初球、細田兄はストレートを投げた。コースは内角高め。山田はフルスイングするも、タイミングもコースも大きく外れていた。

「ストライク!」

(こいつが要注意人物だって? 安達に比べたらこんな奴、屁でもねえぜ)

 2球目。今度は外角低めへストレートを投げる細田兄。山田はフルスイングするも、またもや空振りに終わる。しかし、タイミングコース共に初球と比べるとかなり合ってきていた。

(多少はやるみたいだな。でも、次で終わらせてやる)

 3球目。外角の低めへ外れるカーブを投げる細田兄。ストレートのタイミングで待っていた山田は、態勢を崩しながらも必死にバットを伸ばす。

「カーン!」

「ファール!」

(ふー危ねえ。なんとかバットの先っぽに当ててやったぜ)

(往生際の悪い奴だな。次こそ本当に最後だ)

 4球目。決め球のカーブで空振りを奪えずムキになった細田兄は、渾身の力を込めてストレートを放った。コースは外角の高め。球速はこの日最速の157キロに及んだ。

「カーン!!」

 真上に高々と上がった打球は、キャッチャーフライとなった。

「クソっ!」

 悔しがりながらベンチへと下がっていく山田。

(俺の渾身のストレートにいきなり当ててきやがった。山田か……どうやら監督が言う通り、本当に要注意人物だったみたいだな)