安達弾~打率2割の1番バッター~ 第28章 夏の甲子園千葉大会決勝 船町北VS三街道⑧
今日の比嘉はコントロールが安定しておらず、キャッチャーの西郷が構えたミットの位置よりも、全部高めの甘いコースにいっていた。しかしその分、球のキレはいつも以上だった。
「ストライク!」
甘いコースなのにも関わらず、雨宮は2球目も手が出せないまま見逃した。
(今までもボールが浮いてくるようなストレートを見たことは何度かある。細田先輩のストレートなんかもその類だ。だけどこいつのストレートに関しては……もはや次元が違う)
「ストライク! バッターアウト!」
3球目。何とかバットを振りにいった雨宮だったが、比嘉のストレートはその遥か上を通り過ぎていった。
(ボール4つ分? いや、5つ分くらいか)
打席からベンチに帰る前に、雨宮はネクストバッターの田所にこう助言した。
「気持ちボール5つ分くらい高めにスイングしろ」
「はっ? マジで?」
「大マジだ」
雨宮からそんな助言をもらった3番バッターの田所だったが、まだ半信半疑の状態だった。
(いくらなんでもそれはないだろ)
しかし、比嘉の初球を見た瞬間、田所は雨宮の助言が正しかったことを理解した。
「ストライク!」
(確かにそのくらい高めを振らなきゃ、当てられそうにないな)
2球目、外角にきた比嘉のストレートを見て、一瞬打ちにいこうとした田所はすぐに思い直した。
(ここから5個分高めに浮き上がるなら、外れる!)
「ボール!」
(よし、ボール5個分って見立ては概ね正しそうだな。次にストライクゾーンに入ってきたら……決めてやる)
3球目、ホームベースにぶつかりそうなくらい低めに向かっていたストレートの軌道を見て、田所は確信する。
(ここからボール5個分浮かぶってことは、入る!)
「カーン!!」
真上に高々と上がった打球は、キャッチャーフライとなった。
(ちっ、打ち損ねたか。でも、打てない球じゃない)
(今日の比嘉のストレートなら、最初の一巡くらいは安心して抑えられると思っていたばってん、初回でいきなり当てられたばい。三街道打線……やっぱり強敵たい)
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船町北 0
三街道 0
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