安達弾~打率2割の1番バッター~ 第28章 夏の甲子園千葉大会決勝 船町北VS三街道⑦

(監督に言われた通り低めに投げてみたけど、まさかここまで効果があるとはな。監督があそこまで評価する安達がどれほどのものかと思ったけど、これなら楽勝だな)

 細田弟は安達との初対決で、そんな感想を抱いていた。
 
 1回裏。三街道の攻撃。マウンドには先発の比嘉が上がり、投球練習を始めた。

「パンッ!!」

(今日の比嘉のストレート、いつも以上にキレッキレたい。これは期待できるたい)

 三街道の先頭バッター佐藤は、同じ1年生の比嘉との対決に並々ならぬ思いを抱いていた。

(今年三街道にきた俺達1年は、みんな中学時代から全国大会常連の強豪校で結果を残してきたエリートばかり。そんなレベルの高い集団の中でさらにレギュラーを勝ち取った者のみがやっと、この甲子園出場を賭けた決勝戦の舞台に出られてるんだ。それなのにお前ときたら、全国にもいったことのない無名の選手で、さらにはストレートしか投げられないときてる。そんなふざけた野郎に、負ける訳にはいかねえんだよ)

 そんな佐藤に対して、初球を投げる比嘉。

「ストライク!」

 ポカンと大口を開けながら、茫然と立ち尽くす佐藤。

(俺は今、夢でも見ていたのか?)

「ストライク!」

 佐藤は比嘉の2球目を見ても尚、未だに信じられないといった様子で困惑した表情を浮かべている。

「ストライク! バッターアウト!」

 見逃しの三振となった佐藤は、ここでやっとこれが現実であることを理解した。

(物理的に考えて、球が上に浮くはずがない。そんなことありえないはずなのに……それが今目の前で、現実に起こっていた)

「おい佐藤、1回も振らずに三振てそりゃないだろ。で、どんなストレートだったんだ?」

 ネクストバッターの雨宮がそう尋ねると、佐藤はこう答えた。

「球が浮いてきた」

「球が浮いてきた? もっと具体的に教えろよ」

「めっちゃ浮いてきた」

「なんだよめっちゃって」

「コラッ! 早く打席に入りなさい」

 審判から注意が入り、急いで打席に入る雨宮。

(全く佐藤の奴、一体どうしたんだ?)

「ストライク!」

 比嘉のストレートを打席で初めて体感した雨宮は、ここでようやく佐藤が言っていたことを理解した。

(本当だ……めっちゃ浮いてきた)