安達弾~打率2割の1番バッター~ 第28章 夏の甲子園千葉大会決勝 船町北VS三街道㊲

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『吉田が戻ってき次第、例えカウントの途中でもすぐに交代させるぞ』

 鈴井監督はこの発言をした瞬間、こんな作戦を思いついていた。

(カウントの途中でも、例えば川合に1ストライク取らせてた後に比嘉に交代させれば、残り2球しか投げられなくてもバッターを三振に打ち取れる。そうか! その手があったか!)

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(最後の最後で、何とか首の皮1枚繋がった。だがまだ油断はできないぞ。2球の内、たった1つでもボール球を出してしまえば押し出しになってしまうし、ファールで粘られたりでもしたら80球を超えてしまう。だから比嘉、何としてもこの2球で決着をつけてくれ!)

「ちぇっ、1番盛り上がるところで交代かよ」

「これだけ四球を連発しておいて、よく言うたい」

「先輩、おいしいとこは全部俺が持っていきますね」

「しょうがないな。絶対に抑えろよ」

 カウントの途中で交代を告げられ面白くない川合は、渋々比嘉にそう言い残しながらボールを手渡した。

「先輩、残り2球の配球なんですけど……」

 しばらく話し合いを続ける比嘉と西郷。

「……本当にそれでいいたいか?」

「確実に三振に打ち取るには、これがベストです」

「わかったばい」

 選手交代を告げられた選手達が各々の守備位置につくと、試合が再開された。

(カウントの途中で急に交代なんかしやがって、ほんとムカつくぜ。でも、俺にとっては好都合だ。今まで散々いいようにやられてきた比嘉の野郎に、やり返すチャンスが巡ってきたんだからな)

 比嘉に対する闘志をメラメラと燃やしながら、打席に立つ佐藤。そんな佐藤に対して、比嘉がこの試合で79球目となる球を投じた。

「カーン!!」

「ファール!」

(よし、当てれた。今のは普通のストレートか。さすがに3度目の対戦となれば、空振りなんかさせねえよ)

(初球から当ててきて、しかもタイミングも合ってるたい。さすがは三街道打線の1番バッターを任されているだけのことはあるたい。こいつをラスト1球で確実に抑えるためには……比嘉の言う通り、あの球を使うしかないたいか)