安達弾~打率2割の1番バッター~ 第28章 夏の甲子園千葉大会決勝 船町北VS三街道㊲
9回裏2アウト満塁フルカウント。次の比嘉が投じる1球で、船町北が優勝を決めるのか、あるいは三街道が同点に追いつくのか、はたまた三街道が逆転優勝を決めるのか、その全てが決まってしまう。
球場にいる観客達、ひいてはテレビやラジオやネットでこの試合の行方を見守る野球ファン達のボルテージがマックスまで高まる中、マウンドの比嘉は覚悟を決めて、投球フォームに入ろうとしていた。
(雰囲気が変わった? 比嘉の奴、何か企んでやがる。ひょっとして、角田先輩に投げたスローボールをまたやる気じゃないだろうな?)
そんな疑念を抱いた佐藤は、その可能性を頭の片隅に入れながらも、比嘉の投じる球に全神経を集中させる。セットポジションから、いつにも増して躍動感あふれるフォームの比嘉の右手から球が投じられると、佐藤は瞬時にそれがスローボールではないことと、そしてもう1つ重大なことを確信した。
(この感じだと……高めに外れる!)
佐藤はバットが回る寸前のところで、何とか止めることに成功した。しかし……。
(おいおい……何でストレートが落ちてるんだよ)
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9回裏に比嘉が川合と交代する際、比嘉はキャッチャー西郷にこんなことを頼んでいた。
「先輩、残り2球の配球なんですけど、最初は普通のストレートか浮き上がるストレートのどちらかで。そしてラスト1球は、落ちるストレートを投げたいんですけどいいっすか?」
「おいちょっと待つたい! 落ちるストレートって、前に試してみたけどあまり通用しなかった新型の奴たいか?」
「いや、そっちじゃなくて、前に投げていた球速の速い方です」
「でも、140キロ以上の球は医者から止められているはずじゃなかったばいか?」
「もしもファールで粘られたりでもしたら、どっちみち80球以上投げるなって医者の言い付けを破ることになるんで。どうせ破ることになるなら、今までずっと我慢してきた分の力も込めた渾身のストレートを投げて、後悔の残らないようにしたいんです!」
「本当にそれでいいたいか?」
「確実に三振に打ち取るには、これがベストです」
「わかったばい」
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佐藤が高めに外れると判断した比嘉の球は、高めに外れるどころかストライクゾーンのど真ん中を通過していった。
「ストライク! バッターアウト! ゲームセット!」
123456789 計
船町北 000100001 2
三街道 010000000 1
マウンドに集まって喜びを爆発させる船町北ナイン達と、ショックのあまりその場に立ち尽くす三街道ナイン達。電光掲示板には、最後に比嘉が投げた渾身のストレートの球速が表示されていた。
『155』
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