安達弾~打率2割の1番バッター~ 第28章 夏の甲子園千葉大会決勝 船町北VS三街道㉞
細田弟が中学2年生の秋頃、一緒に暮らしている兄の急激な身長の変化に気が付き始めた。いつも見下ろしていたはずの兄が、いつの間にか徐々に自分の身長へと近づいていたのだ。
(このままいけば、兄貴に抜かされるかもしれない。身長も、そして野球までも……)
身長の急激な伸びに比例するかのように野球の実力までも急激に伸びている兄に対して、危機感を募らせた細田弟は、新しい変化球の習得に取り組むなどさらなる努力を続けた。
そして中学3年生になった細田弟は、シニアの関東春季大会でエースとして大活躍しチームを優勝させるなど、全国でもトップレベルのピッチャーにまで成長していた。
しかし、どんなにシニアで活躍しても、細田弟は満足などしていなかった。なぜなら、すぐ近くに自分よりも速くてキレのあるストレートを投げる兄の存在がいたからだ。
(高校生になったら、兄貴のいる三街道高校に行こう。そして兄貴と一緒に甲子園出場を果たして、全国の大舞台で兄貴以上の活躍をしてみせる!)
細田弟はそんな野望を抱いて、兄のいる三街道高校への進学を決めた。
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(兄貴と一緒に甲子園出場を果たして、そこで兄貴以上の大活躍をする。その野望を果たせるラストチャンスを、こんなところで逃してたまるか。絶対に打ってやる!)
そんな打ち気満々で打席に入る細田弟に、大泉監督からまさかのサインが出された。
『2ストライクまで振ってはいけません。フォアボールを狙いなさい』
(はぁ? 何だよわざわざ回想シーンまで入れたっていうのに)
不満たらたらな態度を見せながらも、仕方なく監督の指示に従う細田弟。しかし、この大泉監督の土壇場での采配が見事的中する。
「ボール!」
「ボール!」
「ストライク!」
「ボール!」
「ボールフォア!」
(よしっ! やはり思った通りです。私は8回裏の川合君の投球を見て、てっきりコントロールが安定したと思い込んでしまった。でも、この回の川合君の投球を見て確信しました。やはり川合君のコントロールは不安定なまま。8回裏の投球は、たまたま運良くストライクボールが先行していただけだったのですね。危うく騙されるところでした。さあ、勝負はここからですよ)
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