安達弾~打率2割の1番バッター~ 第28章 夏の甲子園千葉大会決勝 船町北VS三街道㉝
9回裏。この回の先頭バッターの5番虹村は、積極的にヒットを狙いにいこうという大泉監督の作戦に従って、初球から積極的に打ちにいったが……。
「カーン!!」
低めに外れたボール球に手を出してしまい、結果はセカンドゴロ。さらに、続く6番冴島も……。
「カーン!!」
内角高めの厳しい球に手を出してしまい、結果はショートゴロ。三街道高校は、あっという間に2アウトと絶体絶命のピンチに立たされていた。
(このまま終わらせる訳にはいかねえ)
そう気合を入れて打席に向かったのは、7番の細田弟であった。
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小さい頃の細田弟は、周りの同級生達よりも頭1つ以上背が高く、そしていつも兄の真似ばかりする子供だった。
兄がサッカーを始めれば、真似してサッカーの練習をし、兄がバスケを始めれば、また真似してバスケの練習をし、兄がバレーボールを始めれば、またまた真似してバレーボールの練習をする。そしてどのスポーツにおいても、細田弟は必ず1年以内には兄を超えていった。
そんな訳で、中学生になった兄が野球を始めた時も、細田弟が真似して野球を始めるのも、そして兄以上の実力をすぐに身に付けるのも必然のことだった。
客観的に見れば、2歳年上の兄をいつもことごとく超えていく天才の弟といった感じに映るが、少なくとも細田弟自身は、決して自分が兄よりも優れているなどと思ったことは1度もなかった。
(俺が兄貴に勝てているのは、単純に兄貴よりも俺の方が背が高いからだ。もしも将来、兄貴が俺以上の身長にでもなったら、いつ負けてもおかしくない)
小さい頃から背が高かった細田弟は、スポーツで負かした相手やチームメイトなどから、よくこんな陰口を叩かれていた。
「あいつデカ過ぎなんだよ。ズリーな」
「デカいだけでレギュラーになれて羨ましいぜ」
そのせいか、細田弟はいくら活躍しても、ただ背が高いから活躍できているだけで、本当は大したことないんだと自信を持てずにいた。しかし、そんなネガティブ志向のおかげで、自身の実力に慢心することなく絶え間ない努力を続けてきた結果、細田弟は驚異的な成長を遂げていくこととなる。
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