安達弾~打率2割の1番バッター~ 第28章 夏の甲子園千葉大会決勝 船町北VS三街道㉜

「カーン!!!」

 逆転のソロホームランを放った安達の次に打席に上がった4番山田の打球は、またまたレフト方向へと大きく打ち上がるフライだった。

「いけー!」

「伸びろ伸びろ!」

「またGuM風でホームランだ!」

 船町北のベンチではそんな声援が飛び交ったが、そう都合よく風が吹くはずもなく山田はレフトフライに倒れた。

     123456789
 船町北 000100001
 三街道 01000000 

「くそっ! また安達にやられた!」

 グラブをベンチに叩き付けながら、あまりの悔しさに怒りを露わにする細田兄。そんな細田兄に向かって、大泉監督が注意する。

「コラコラやめなさい。試合はまだ終わっていませんよ」

 大泉監督の言葉に冷静さを取り戻した細田兄は、今度は泣きそうな顔になりながら、監督とチームメイトに向かって謝罪した。

「さっきはすまなかった。ちゃんと低めギリギリのコースを最後まで狙って投げていれば、ホームランなんか打たれることはなかったんだ。それなのに……俺は自分勝手に安達との真っ向勝負にこだわってしまった」

 そんな細田兄の肩を、ポンと叩く大泉監督。

「別にそこを反省する必要はありませんよ。1ストライク3ボールのあの状況から無理に低めギリギリを狙っていたら、フォアボールで安達君に出塁されてしまうリスクが高かった。そうなると、3塁まで走られて実質スリーベースです。それならば、例え打たれるリスクがあったとしても、真っ向勝負を選んだあなたの選択は間違ってはいません。それに、あの勝負は実質雄一君が勝っていましたよ。ただ不運にも、風が安達君の味方をしてしまった。それだけのことです」

「監督……」

「安達君に打たれたあのストレート、球速は確認しましたか?」

「いや、見ていませんでした」

「161キロです」

「えっ! そんなに出てたんですか」

「あの1球は、今まで私が見てきた中でも1番に入ると言っていいベストピッチングでした。あれを打たれたんじゃ、誰も文句は言えませんよ」

「監督……」

 涙を拭う細田兄と、思わずもらい泣きしそうになるチームメイト達。

「何だかみなさん、逆転されて湿っぽい雰囲気になっているようですが、少なくとも私はまだまだうちが有利だと踏んでいます。だってほら、まだたったの1点差ですよ」

 そう言いながらスコアボードを指さす大泉監督。

「君達の実力を持ってすれば、簡単にひっくり返せる点差です。どうやら9回も、船町北は川合君を投げさせるようですね。彼はずっと制球に難がありましたが、8回からはかなり安定していました。そこで、ここからは積極的にヒットを狙いにいきましょう。球速が速いといっても、所詮はストレートしか投げられないピッチャーです。君達ならきっと、打ち崩せると信じていますよ」

「はい!」