安達弾~打率2割の1番バッター~ 第28章 夏の甲子園千葉大会決勝 船町北VS三街道㉚

 安達のスイングは、細田兄が投じたカーブのわずかに上を空振りした。

(前の打席で見た時よりも、そして去年対戦した時よりも、はるかに変化量やキレが増している。今まで投げてた球は、コント―ル重視で本当の力を抑えていたってことか。となると……ストレートもヤバそうだな)

(よっし、今ので去年打たれたカーブのリベンジは達成した。次はホームランを打たれたストレートのリベンジを、真向勝負で空振り三振に仕留めて達成してやる)

 6球目。低めいっぱいに今度はストレートを要求する森だったが、細田兄はまたサインを無視して、1番力を込めやすい内角高め目掛けて渾身のストレートを投じた。

(やばっ!)

 またもやサインとは違うコースに球がきて焦る森。

(黒山先輩に千石聖人、そして比嘉。ピッチングマシーンの160キロのストレート以上に凄い球を投げるピッチャーと、俺は今まで何度も対戦してきた。そこで培ってきた経験を、今このスイングに全てぶち込んでやる!)

 次は渾身のストレートでくるだろうと大方予想を付けていた安達は、待ってましたと言わんばかりの渾身のフルスイングで細田兄のストレートを迎え撃った。

「カーン!!!!」

(勝った!)

 明らかに芯が外れたその打球音を聞いた瞬間、細田兄は勝利を確信した。

(くっそー。かなり高いレベルのストレートを想定してスイングしたのに、そのさらに上をいかれた)

 ライト方向に引っ張るイメージでスイングしていた安達だったが、想定以上のストレートに差し込まれ打球はレフト方向へ高々と大きなフライが上がっていた。

(レフトフライか)

 球場にいる誰もがそう思っていた。打った安達本人も、一応走ってはいたものの十中八九レフトフライでアウトになるものだと思い込んでいた。そう、あの強風が吹くまでは……。