安達弾~打率2割の1番バッター~ 第28章 夏の甲子園千葉大会決勝 船町北VS三街道③
「勝負させてください。去年の春季大会で安達にやられたリベンジができるのは、明日がラストチャンスなんです」
「高校生ナンバー1スラッガーの清村弟相手にも敬遠しなかった俺が、敬遠策なんか取るはずないでしょう。絶対に勝負しますよ」
「ちなみにですが雄二君、マスメディアではよく清村弟のことを高校生ナンバー1スラッガーなんて言っていますが、私個人としては安達君の方が上だと評価しています。それでも勝負しますか?」
「そこまで監督が評価する安達……ますます勝負してみたくなりましたよ」
「よく言いました。2人ともそこまでやる気満々なら、もう敬遠策なんてつまらない作戦は考えないことにしましょう。その代わり、安達君を抑えるためのとっておきの作戦を教えてあげましょう。作戦名はずばり、とにかく低めだけ投げろ作戦。作戦内容はそのまんまです」
「そんなシンプルな作戦で、本当に安達を抑えられるんですか?」
「今までの安達君が打ってきたヒットやホームランのデータをできる限り集めて分析した結果、なんと低めにきた球は1球も打っていないことがわかりました。つまり理論上は、低めのコースにさえ投げていれば100パーセント抑えられるということになります。ただし、あまりにも露骨に球速を抑えて低めに置きにいくような球ばかり投げていては、作戦がばれて打たれてしまうかもしれません。なのであくまでも普段通りの投球で、低めだけに投げるようにしてください。2人の制球力をもってすれば、さすがに全球は無理かもしれませんが8割9割くらいは低めのコースだけでストライクが取れるでしょう。これで飛躍的に、安達君を抑えられる確率は上がりますよ」
「そう言えば監督、結構前から俺や兄貴にやたら低めのコントロールを意識して投げるように言ってましたけど、もしかして安達対策を念頭に入れていたんですか?」
「もちろん、と言いたいところですがそれはたまたまです。安達君が低めの球が打てないとわかったのはつい最近のことですし、低めを意識して投げるように言ったのは、単純に低めの方が長打を打たれにくいという野球のセオリーに従って指導していたまでです。でもその指導が結果的に、安達君対策に役立ったみたいで本当に幸運ですね。勝利の女神はすでに、うちのチームに微笑んでいますよ」
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